ゆずっきーに

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

体調が良くない中での鑑賞だったが、体調が良くないときはこれぐらい緩やかな映画が丁度いい。
圧倒的に"静"の映画。そもそもの台詞の数が少なく、カメラもFIXまたは穏やかなPAN、ズームアップが多用されている。

前半の各カットはいずれも間延びしているようにしか感じられず、これ後半で巻き返さないと完全駄作じゃん…となっていたところ、後半は各カットに時間を割きつつもテーマが深まり広がっていくため総じて鑑賞に耐えた感じ。幽霊となった主人公の姿を追うことに終始する構成だったが、もう少し登場人物を増やしてテンポ良くすれば90分内の濃度は上昇しただろう。もっとも作り手はそれを承知の上で敢えて主人公にフォーカスしたのであろうことも理解する。しかし個人的には鑑賞中に退屈を抱いてしまった時点で改善の余地ありなのでは?とも思ってしまった。
カットの切り替えで時計の針を一気に進める表現技法は面白い(死骸の腐敗経過を示すシーンとか)。あと、インターステラーのオマージュみたいなことになってるのも興味深かった。勿論本作の脚本を顧みれば妥当な描写なのでパクリ叩きに走るつもりはない。

「死」と「家」の連結を考えるのがやや難解か。中盤の男の長台詞(人間皆いつかは宇宙の滅亡とともに塵と化すんやで~って所)を思考の出発点とすると、主人公は果たして妻に何を遺せたのか。最後のメモは彼が遺せたことの証左だろうが(循環するようだが、遺せたからこそ彼は消失したのだと思う)、しかし一方で家を出た妻が彼の地に舞い戻ることは恐らくもうないのであって、空き家にはやがて他の者が移り住み、その住民もいつかは旅立ち、建築の寿命を迎えた家は取り壊され、空き地には別な建物が建てられるという土地の歴史の悲哀を滲ませながら物語は幕を閉じる。

ずっと残したいと願うもの(本作では家)もいつかは消えてしまうが、無形の愛や作った音楽、交わした言葉なんかは死後も他者の記憶に留まり続けるということ、そうして残したいと願う相手の心に自分の残滓が漂い続けることが人間の愛の本懐である、といったメッセージが本作のキモであろうか。
メタ視点に立つならば、この映画自体も未来に残さんとする作品そのものであるということになるが、ベートーヴェンの第九やモナリザに比べてしまえば歴史的価値に劣るわけで、それでも映画を撮り続けるのだという作り手たちの確たる気概も受け取った。
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