湯呑

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの湯呑のレビュー・感想・評価

4.2
芝山幹郎氏が本作をアピチャッポン監督『光の墓』と比較していたが、なるほど前半だけをみれば『光の墓』に勝るとも劣らない睡眠導入効果である。タルコフスキーも真っ青のワンシーンワンカット撮影、意図的に省略された台詞、暗鬱なBGM、観る前につけ麺の大盛を食べたので、本気で落ちそうになった。
しかしこの映画、後半にかけてどんどん面白くなってきて、最後は眠気など吹っ飛んでしまう。死んだ夫が幽霊となって残された妻を見守る、という筋書きは映画に限らずありふれたもので、幽霊が人ではなく場所に取り憑く、というのもよくある話だ。しかし、そのありがちな設定から、ここまで大風呂敷を広げるとは恐れ入った。妻との思い出が詰まった家に留まり続ける幽霊と、入れ替わり立ち替わり現れる新しい住人たち。無時間的な存在である幽霊を媒介に、永遠にも等しい時間の流れを本作は『2001年宇宙の旅』ばりに大胆な省略法によって描く。あまりにも美しく円環を閉じるラストは少しでき過ぎの気がしないでもないが、シーツを被ったゴーストのビジュアルも含め、古典的な幽霊譚をフレッシュに蘇らせた快作と言えるだろう。
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