ninjiro

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのninjiroのレビュー・感想・評価

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死んだ身体を見るのは不思議。特に死んだばかりの身体。最前までそこに宿っていた筈の火が、風も吹きやしないのにふいっと消えてしまうのだから。古来より蝋燭の火に喩えられる、命というもの、まさにそのもの。火が消えた後の煙がぽっと広がって消える、煙は間違いなく空間を彷徨うのに、時を待たずにたちまち眼には見えなくなる。わたしに確認出来るのは、そこにモザイク状の火が燃えて、当たり前に消えたという事実だけ。火が点っている間には、その事実をすら忘れる。寝返りを打つたび感じて忘れる、いつもと変わらず定時に仕事に出掛け、列車の何時もの車両が測ったように止まるまでベンチに座って感じて忘れる、時間は待ってはいないから、生きている限りは繰り返すだろう。実際に触れたことはなくてもこのしっとりと冷えた感触、竜という幻の生き物が、ありもしない図鑑の絵の通りにあるとするなら、その成れの果てしなく永く整然と並んだ巨大な鱗の一つにでも触れて慄く、わたしが当たり前に触れたものはあなたが当たり前に触れるものとは違う意味を持って、唇の記憶は曖昧なまま、大きさの概念を無くして向かい合い、差し出したそれぞれの右手と左手がぴったりと抱き合うように合わさる。雨上がり、普段の眼には止まらぬ緩やかで、浅い窪みに薄く溜まった水鏡、その深い向こうにひび割れのように走る枝の先は、わたしだけが見守っているようで目が合ったようで、全て該当なし、ただ判別ができないのは、もう永い事、ドットがドットの振りをしなくなったからなのかも知れない。曖昧な、終わった後の余韻の為の時間がこんなにも長い始まりの頃、メイクの仕方を乾いたまま、渇いたまま、君は誰の為に君を残す?見つける人はいる?煙が火になる事はない、永い永い、余韻の中にいる。
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