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赤い波止場のodyssのレビュー・感想・評価

赤い波止場(1958年製作の映画)
3.0
【「望郷」日本版だが・・・】

石原裕次郎と北原三枝主演による映画の1本。1958年、モノクロ、シネマスコープ・サイズ。

DVDのジャケット解説によれば、舛田利雄監督がジャン・ギャバン主演で有名なフランス映画『望郷』へのオマージュとして作ったということですが、そう言われればそうかなとは思うものの、類似点はあまり目立ちません。

『望郷』ではパリに帰りたいという逃亡者の強い里心とカスバの閉塞感とがうまくマッチしているのですが、この『赤い波止場』では、東京で人殺しをしたために神戸に逃げてきている殺し屋という設定の石原は、一方で東京に帰りたいと念じているものの、他方で海外に逃亡して今までの暮らしを清算したいという気持ちをも持っています。つまり望郷と海外逃亡のあいだで心理が揺れているのです。

この映画ではヒーローの石原にからむ若い女性が二人登場します。一人は彼に入れあげているキャバレーのダンサー(中原早苗)で、関西弁でしゃべる彼女を石原が本当には愛していないという設定から、関西に染まらずにむしろ逃げ出したいと思っている石原の気持ちはたしかに読みとれはします。

しかし、東京の女子大に通っていたけれど兄が死んで神戸に戻ってきた良家の令嬢という設定の北原三枝は、一方では東京の匂いを感じさせて石原に東京への望郷の気持ちを起こさせるのですが、彼女はそもそもは関西の出身のはずなのに言葉は完全に標準語だというところに矛盾、或いは無理が感じられますし、また上述のように石原は東京への望郷の気持ちと並んで海外へ逃亡したいという気持ちを強く持っているので、いわば心理的な志向が分散しており、カスバの閉塞感とパリへの望郷によって主人公が心理的に追いつめられていく『望郷』のような筋書きの必然性をあまり感じることができないのです。

最後近くで、石原が香港へ逃亡するために乗るはずだった船が彼を乗せないまま港を出るシーンは明らかに『望郷』を意識していますが、ジャン・ギャバンがフランスへ向かう船に乗りたくて仕方がなかったのに比べると、石原は日本からの逃亡を考えながらも北原に惹かれる気持ちもあって中途半端であり、船におきざりにされるという印象を観客が持ちにくいので、このシーンの効果は高くないと言うしかありません。

そうした難点はありますが、港町神戸の街並みや祭り、港を望む景観、モダンなキャバレー内でのダンスなど、映画的な楽しみはそれなりに盛り込まれています。登場人物の仕草や服装などは、平成のダラシナ系の日本人よりはるかにきっちりとしていて造形的ですし、陰影をくっきりつけているモノクロ画面も効果的です。
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