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血のお茶と紅い鎖のliのレビュー・感想・評価

血のお茶と紅い鎖(2006年製作の映画)
4.7
まさかアマプラにあるとは…
元々原題では認知していたけれど、『血のお茶と紅い鎖』という邦題、そしてキッズと書いてあるけれど全然キッズ向けじゃなさそうなビジュアルに惹かれて夜中に鑑賞開始。冒頭から虜に…

不安定で捉えどころのない実写映像、不気味なのにどこか切なげな音楽。このバランスを丁寧に、こだわって作り上げているのがひしひしと伝わってきた。

こういう、5W1Hが明確じゃない、むしろその方が味が出るような物語の構成は唯一無二。ストップモーションアニメはその独特な動きが魅力だけれど、そこに更に不思議さ、不快さ、見ていて落ち着かないようなシチュエーションがたくさん。それが脳裏に張り付いて離れず、じわじわと染み込んでくる。

一つ一つのシーンの尺が長く、キャラクターたちの細かい身振りを存分に味わうことができた。この尺の長さは、彼らの理解し難い行動を視覚的に、ありのままに見せつけることで、「意味がわからない」というただの不安感だけでは終わらせない効果が出ていると思う。作品としては、「これは芸術なんだ」と思わせ、物語としては、「これは何かの暗喩か?」と考えさせる。ストップモーションアニメにおいて必要以上に長い1シーンは、何より投げかけてくるものが大きい気がする。

この物語、何だか終始切なく感じた。こんなに気味が悪くて、理解不能で、不安を煽る映像ばかりなのに。何だかずっと、切なかった。
きっとそれはキャラクターたちに可愛げがあったからというのも理由の一つ。鳥たちが抱き締め合う所は眉が下がるほど愛おしく感じた。そして一匹の鼠が取り憑かれたかのように人形にずっと執着している所。まるで幼子のように、どんな時も手放さない。
本当に、本当に理解不能だけれど、彼らにとっては大切で、必要で、代えようのないものなのだと。人形の実態が不明な分、それは狂っているように見えるけれど、何だか彼らからは正当な理由があるように感じられた。その理由は勿論わからないし、わからなくてもいいのだと思う。それを、ただ理解不能で終わらせるのはあまり相応しくないんじゃないかなと…。

血のお茶をズーズー飲んでいるシーンはまったく飽きずに見入っていられた。彼らに何が見えているのかヒントもないまま、ずっと同じことの繰り返しのように見えて着実に進んでいく展開。
鼠たちと人形の組み合わせが一番不安感を煽った。美しい見目だからこそ、不気味としか言いようのない人形に囚われている姿は対称的で互いを引き立たせる。

なんて言うんだろう、あの、カードを取りにくそうな動きと、倒しそうなカップと、サイズ感の合わないテーブル。不安定でソワソワするそのシチュエーションが、手作りのストップモーションアニメの何とも言えない魅力だった。そこが好き。
糸の動きは本当に秀逸。長く垂れ下がり、絶えず動き続けるような紅い線。人形のお腹が縫い合わされる度、彼らも、私も、その中に囚われていく様だった。

映像の作り自体は癖が強過ぎないため、ストーリーも味わいながら観ることが出来た。こういった、あまりにも独特な世界をつくり出す芸術の解釈は難解と言われがちだけど、本作は難解と言うよりは、ただただ不可思議。まさに現実離れした夢物語。
Christiane Cegavske監督、これ以外には作品を出していないのかな?もっと観たい気もするし、これだけで良い、だから良いという気持ちにもなる。何にしろ、ファンになってしまった。

冒頭の音楽が頭から離れなさ過ぎてフワフワする…口ずさんでしまう…。
凄く素敵で魅入る作品に出逢えて良かった。円盤が欲しい所だけど、無さそう。
ああ余韻が凄い。是非もっと、たくさんの人に観てもらいたい。
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