April01

羅生門のApril01のレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
3.9
真相は藪の中

のはずが一部始終を見たというキコリの話を追加したことにより、結果として解を与えてしまっている。
さらにタイトルの羅生門は舞台として使っただけで、追いはぎを正当化するような荒んだ世の中、という小説で描かれるコンセプトを背景に、そんな世にも救いがあると、ややわざとらしい偽善なストーリーに仕立て上げているのは、良くも悪くもあるといったところ。

特に原作「藪の中」で、芥川は敢えて解を与えずサラっと放り投げた形で綴られた物語であるだけに、追い剥ぎ「羅生門」の要素と舞台をくっつけて、キコリの役割を増やして創作したことについてはどんな意見を持つか聞いてみたかった気がする。

一見すると解のように見えるキコリの話と、元々の3人の供述に整合性があるかどうか考えてみると、あの矛盾に満ちた3つの供述の嘘の理由について、どうすれば真実らしい核心に迫れるか提示した点は素晴らしいと思う。

多襄丸は
夫が妻を捨てるまでは女に結婚を迫るほど一瞬夢中になっていたが、夫が妻を捨てたので、自分もこんな女はいらないと変心し、しかも男らしくないと女に罵倒されて、女にけしかけられてシブシブ戦ったものの戦い慣れておらずショボイ戦いの末、命乞いする男を殺したこと
を知られたくない

女は
夫が自分をいらないといったことにより、多襄丸の意欲も失せて自分を捨てようとして、結局自分が二人をけしかけて、むりやり決闘させた経緯と、2人の男に捨てられたということ
を知られたくない

男は
妻を捨てようとしたが男らしくないと女に罵倒され、多襄丸との決闘がしょぼく、けしかけられてシブシブ挑んできた多襄丸に命乞いした末の惨めな最期だったこと
を知られたくない

キコリが見た一部始終が本当ならば、みんなが嘘をついた理由を想像してみるとこんな感じ。

最初から信じられない信じられないを繰り返すキコリが1番信じられない!という疑念も残るところが上手。なんかイイ話しみたいに作ってるけど自分みたいなリアリストからするとキコリが1番怪し過ぎて素直に受け取れないので。

あの行きずりの追い剥ぎ男の言う通り、なぜ検非違使に最初から一部始終を見たなら言わなかったのか、小刀盗んだ言われて言い返せないのは盗んだよねー、となるし。

しかも赤ちゃん連れ去りやばいでしょ、売るのかな?とか。坊さんもあっさり信じちゃってマヌケに見える。
こんな偽善の物語、芥川らしくないですね!というイヤミを言いたくなる結末😅

本作の映像面でのアートな高評価は専門の方が散々語っているところだろうから、今さら言及するまでもないけれど、改めて凄いなと思ったのは三船の演技!三船の表情や身のこなしが素晴らし過ぎて!日本人離れした顔つき、特に目!
黒沢作品は三船とセットでこそ海外でウケたことを再確認する。

京マチ子さんは、特に露出が高いわけでもないのに肉感的な魅力がジワジワ伝わってきて本作にピッタリ。特に静から動へ豹変する場面は見ごたえある。
大女優でした✨ご冥福をお祈り申し上げます。
April01

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