うえびん

羅生門のうえびんのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
3.6
生きる

1950年 黒澤明監督作品

『怪物』(是枝裕和監督)のレビューに「羅生門スタイル」という言葉が散見されたので気になって鑑賞。一つの事件を複数の関係者が語る手法は、現在では『怪物』でも世界中の法廷劇でもおなじみの手法だ。今から70年前には、さぞかし斬新だったんだろう。

躍動的なカメラワークに魅せられるとともに、盗賊の多襄丸(三船敏郎)、武士の金沢(森雅之)とその妻(京マチ子)の全身全霊の演技が胸を打つ。事件自体は、さほど劇的ではないんだけれど、多襄丸と金沢の妻の語り、死んだ金沢の巫女の霊媒による語り、木こりの語り…、それぞれの語りに合わせた三人の演じ分けが素晴らしい。

真実は藪の中。太陽の描写に、“お天道様は全てを見ている”という日本的な情緒も感じられる。また、『異邦人』(カミュ)でムルソーが言った「太陽のせい」という不条理も感じられる。

公開年は、終戦から5年あまり。作中の事件を第二次世界大戦になぞらえると、黒澤監督が暗示したものが透かし見える。戦争で意気消沈した日本国民に、映画の娯楽性を前面に打ち出すことで元気を与えつつ、戦後処理の不条理の中に生きるということも考えられるようなしかけ。

脚本や撮影の手法もさることながら、描き出すテーマの奥深さにも唸らされる。
うえびん

うえびん