義民伝兵衛と蝉時雨

羅生門の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.4
タイトルは「羅生門」だが、主は『藪の中』の映画化。
しかし、”道徳”や”善悪”という概念の欺瞞性や、人間の生への理屈抜きの意志、その力強さといった、芥川の『羅生門』の持つテーマもしっかりと核に存在している。芥川のこの二つの傑作の世界観の自然な融合に見入った。
そして、一切皆苦のこの世の中に見える希望。この様にラストにはしっかりと、黒澤ヒューマニズムまでもが奏でられる豪華さ。
芥川龍之介の傑作「藪の中」そしてタイトルに引用された文学史に残る「羅生門」、それらを超えるような衝撃こそは流石になかったが、それでも志村喬演じる木樵の回想から始まる映画版オリジナルシークエンス、それが滑稽味溢れる描写で炙り出す人間の弱さ、そして黒澤ヒューマニズムが炸裂する捨て子を巡るこれまた映画版オリジナルのラストシークエンスの素晴らしさには何と言っても感動した。黒澤映画の完成度の高さはやはり折り紙付き。
役者陣も相変わらずに素晴らしい。取り分け京マチ子の怪演はやはり魅惑的で息を呑むものがある。
芥川の『地獄変』、これも内容が内容だけに黒澤映画との融合を見てみたかった。しかし、個人的には天才芥川の魂の最期の木漏れ日が耽美なる圧倒的な発光を乱れ放つ『ある阿呆の一生』、その映画化という妄想にも思いは馳せる。もしあの絶望的な美しさを見事に映像化することに成功したとなれば、途轍もないものが生まれると思うから。どちらにせよ、原作を超えることはないのだろうけど。