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かけはしのodyssのレビュー・感想・評価

かけはし(2017年製作の映画)
3.0
【イ・スヒョンさんを覚えていますか?】

2001年1月、JR新大久保駅において、ホームから転落した乗客を助けようとして、カメラマン関根史郎さんと韓国人留学生李秀賢(イ・スヒョン)さんが線路に降りたが、接近してきた電車にはねられて3人とも死亡した。

この事故は、首都圏の鉄道ホームにホームドアが設けられるきっかけとなると同時に、韓国人留学生が日本人の命を救おうとして犠牲になったため、韓国に対する日本の親善ムードを高める役割を果たした。日本で韓国のテレビドラマ『冬のソナタ』が放送されて韓流ブームが起こるのがその2年後のこと。

イ・スヒョンさんを描いた映画としては、『あなたを忘れない』が日韓合作として作られ、日本では2007年に公開されたが、フィクションが入っており事実と異なるなどとして映画ファンからは評判が芳しくなかった。私自身は未見であるが。

私は当時、イ・スヒョンさんの高貴な行為を顕彰するには、変なフィクションを入れて映画化するのではなく、最初からドキュメンタリーとして作ったほうがいいと考えていた。

で、この映画『かけはし』だが、映画自体は2部構成である。

第1部はイさんの学んだ日暮里の日本語学校(イさんは韓国人が多く住む新大久保から、学校のある日暮里までJRで通っていた)の様子や、イさんの犠牲に対して多数のお見舞い金が寄せられたが、イさんのご両親はこの日本語学校に奨学金の財源として寄附し、実際に何人もの留学生に奨学金が与えられている事実などが紹介されている。2001年当時は、この学校の生徒はほぼ中国人と韓国人に占められていたが、現在では欧米やアジアの多数の国々から日本語を学ぼうと生徒が集まっているという。

またイさんのご両親は命日には毎年来日して新大久保駅で献花をしているほか、日韓親善の行事などに参加しているらしい。作中、「一粒の麦、もし死なずば」という聖書の文句が出てくるが、イさんの犠牲はその後の日韓親善にそれなりに貢献していることがよく分かる内容となっている。

惜しむらくは、イさん自身の生の軌跡がほとんど描かれていないこと。イさんの祖父は日本で徴用鉱夫としてつらい体験をしたこと、イさんの父も6歳まで大阪に住んでおり1944年に朝鮮半島に帰ったことが紹介されているが、肝心のイさんの成長や、なぜ日本に留学しようと思ったのかなど分からないのが残念。

第2部は日韓交流の紹介だが、この部分は少しく問題がある。

若い日本人と韓国人の交流の模様が映像化されているのだが、特に男女2人に多くの光が当てられている。このうち女子学生は、父が韓国人、母が日本人で、そのため日本語も流暢であり、母方の祖父母は日本に住んでいるので小さい時から日本にも親しみを持っているということで、特に問題があるわけではない。

しかし、男子学生は、表面的な親善と旨とする日韓交流に疑問を感じているという。
この疑問自体は、或る意味、当然だろう。彼は反日的な歴史教育を受けているわけだし、かの国のマスコミも反日一色だから、そういう中で育った若者が、やたらムード的な親善を看板にした交流事業に反発を感じるのは当たり前なのである。

問題はその先である。であるなら、いかにかの国の歴史教育やマスコミがおかしいか、いわゆる慰安婦問題(もこの男子学生は口にしている)は朝日新聞や韓国のでっち上げであることを教えて上げるのが筋だと思うけれど、そうはしていない。

中立を守ったということか。映画の中では早大生や明大生がこの韓国人男子学生と話をしているのだけれど、そういう突っ込んだ話題には行っていない。こういう行事に参加する学生は不勉強なのか、或いはそういうシーンはカットしたのか。

この韓国人学生は、日本の書店に行って日本の歴史教科書を買ってくるのであるが、うーん・・・それなら慰安婦問題はでっち上げだと書いた日本語の本を教えて上げるとか、別に日本人だけでなく、朴裕河のように韓国にだってちゃんとした歴史学者がいて韓国語でその手の本を出しているのだからそれを教えて上げるとか(というか、これは韓国人学生が自分で勉強して知るべきことだと思うけどね)・・・その程度のことはすべきだろうに。

というわけで、第2部はきわめて浅い出来でした。残念。
 
評価は、第1部をメインとして見ることを前提にして★3つとしました。
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