MasaichiYaguchi

かけはしのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

かけはし(2017年製作の映画)
4.0
2001年1月26日、JR新大久保駅で線路に転落した男性を助けようとしたカメラマンの関根史郎さんと韓国人留学生のイ・スヒョン(李秀賢)さんが、その男性と共に亡くなられた。
この事故から16年の歳月が経ったが、その間に韓流ブームがあったり、一転して竹島問題や慰安婦問題を契機に反韓や反日、ヘイトスピーチ、慰安婦少女像設置と互いの国民感情を逆撫でするようなことがここ数年続いていて、両国間の溝が深まっていると思う。
このドキュメンタリー映画は、転落男性を救助しようとして亡くなられたイ・スヒョンさんを軸にして、この青年が生前言っていた「日韓のかけはしになりたい」とい遺志を継ごうとする人々の姿を2部構成で描いていく。
第1章「I am a Bridge!」では、イ・スヒョンさんの両親や彼が通っていた日本語学校の関係者のインタビューから彼の人となりやその短い生涯を浮き彫りにしていく。
第1章で心に残るのは、この青年の素晴らしさは、この両親にしてあったのだと思わせるその人柄。
この親御さんたちは、事故後に日本全国から寄せられた弔慰金を息子の遺志を継ぐため、アジアから日本に留学する若者たちの一助になる奨学会の設立に全てあてている。
そしてこの章では、親より先に亡くなってしまった愛する息子への思い、その喪失感を含めたものがスクリーンから痛いほど伝わってきて胸が詰まる。
第2章「足跡をたどって」では、日本への「かけはし」的役割を果たす、この奨学会が行った支援活動や国際交流によって出来た“道筋”を現在の視点で描いていく。
反韓、反日、ヘイトスピーチの嵐が吹き荒れた日韓国交正常化から50周年を迎えた2015年に、釜山から22名の大学生がイ・スヒョンさんのゆかりの地を訪れたり、日韓の交流の歴史が刻まれた奈良県を旅する中で日本の若者やその地の人々と交流した1週間がレポートされていく。
それは単に観光旅行レポートではなく、日韓のデリケートな問題を含めて若者たちが本音で語り合うところも描かれる。
この第2章を観ていると、日本に対して頑なだった若者が様々な人々との交流を通して変わっていくのに希望を感じる。
日本の文化に多大な影響を与えた“隣人”であったのに、様々な歴史的経緯で現在は“近くで遠い存在”になっている韓国。
本作は両国に横たわる深い溝に対して、国、民族、文化、風習の違いを超えて人と人は繋がれる、「かけはし」になれるという希望を映し出している。