小

日本と再生 光と風のギガワット作戦の小のレビュー・感想・評価

5.0
「でも原発を無くしたあとのエネルギーはどうするんだ?」

こう思ったことのある人は、是非ともこの映画を観るべきだろう。とてもわかりやすいし、納得できる。そして将来に希望が持てる。

この種の他のドキュメンタリー映画って、あまり知られていない問題を明かにしてくれるのは良いけれど代替案や処方箋はほとんどなく、観た人は「じゃあどうすれば良いだろう。電気を節約するとか、せめて自分でできることはしよう」と思って、しばらくすると忘れてしまうのがオチ。しかし、この映画は「じゃあどうすれば良いのか」だけにほぼ特化している、スッキリ系のドキュメンタリー。

20年間にわたって原発の危険性を訴え、日本全国の原発差止訴訟の先頭に立って活動するなど脱原発に向けて奔走している弁護士で、本作の監督の河合弘之氏。先に監督を務めた『日本と原発』『日本と原発 4年後』で一番多く言われたのが冒頭の言葉だという。

結論から言えば、原発後のエネルギーは風力や太陽光などの自然エネルギーであり、世界は既にその方向へとシフトしている。そして、政府が原発再稼働にこだわる日本は遅れているように感じる。

この映画を観ると、日本も早く自然エネルギーに重点を置くよう舵を切って欲しいと素直に思う。だってそのほうが安全だし、コストも安いし、経済成長にも貢献しそうだから。それに各国が自然エネルギーへと向かったのは、福島原発の事故を見たから。それなのに日本は…。

しかし、この映画にあるようなことは、国の中枢の方々は百も承知なのではないか、という気がする。だって、この映画は知られざることを掘り起こしてスクープしているわけではないから。知っていて、どう考えても合理的方向に舵を切らないのはどうしてなのか。

映画では利権を手放したくない原子力村が抵抗しているからだ、というようなことが言われていたけれど、どうなのだろう? そういうことが報道されないのは、原子力村の抵抗ということに報道に値するような問題がないからなのか? それともマスコミの怠慢なのか? 真実はどうなのか、ベッキーも良いけれど、こっちの方面でも頑張ってくれよ文春砲、と思わなくもない。

ところで、このドキュメンタリー映画の音楽は新垣隆さんが担当し、エンディングテーマは坂本龍一教授。だから音楽が良いのはもちろんだけれど、編集、構成もとても良くできている。弁護士が本業の監督の力では難しく、脚本・編集・監督補を務める拝身風太郎さんという方の手腕によるところが大きいという。

この拝身さんという方は映像関係のプロらしいけれど、実名は伏せられている。なぜならばこういう映画に携わっていると、仕事がなくなるから。だけど、監督の考えに賛同して匿名で映画制作に参加しているとのこと。そういえば音楽も、世間のしがらみからある程度自由になっている人のような気がする。

もし、疚しいことが一切ないのであれば、こうした無言の圧力みたいなものがあるわけがないから、やはり原子力村には突かれたくない何かがあるのではないか、という気がする。

原子力村はCMや広告の大スポンサーだからというのが、わかりやすい理由かもしれない。しかし、それだけだろうか。個人的には映画『アトムとピース 瑠衣子 長崎の祈り』で観た政治家たちが隠してきたある事実がひっかかる。

ある事実を理由に原発を再稼働するとは絶対に言えないだろうけど、政府が原発を再稼働しようと思うのには一定の説得力を持ちうることだと思う。もし、ある事実が原発再稼働を決める権限を持つ人の心理にも影響しているのであれば、政府は再稼働の方針を容易には変えないかもしれない。

しかしそれでも、国を動かすのはやはり民衆の力だと思う。自然エネルギーについて正確に知る人が増えていけば、政府がどうあろうとも、変わっていくだろうと思う。
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