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SING/シング:ネクストステージのsomaddesignのレビュー・感想・評価

3.5
ムーンの口八丁っぷりにイライラしちゃう

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前作で再建に成功した「ニュー・ムーン・シアター」。今や人気の劇場となったが、支配人のムーンにはより大きな夢があった。ショービジネスのの中心地レッド・ショア・シティにあるクリスタル・タワー・シアターで新しいショーを披露すべく、クリスタル・エンターテインメント社の経営者ジミー・クリスタルの厳しいオーディションに通過を目指す。ジミーの気を引くべく、バスターは伝説のロック歌手クレイ・キャロウェイが自分達のショーに出演することを思わず約束してしまうのだが……。

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前作に引き続いて吹き替え版鑑賞。字幕版の公開少なすぎ問題。
新キャラ・アルフォンゾの声と歌をファレルが演じてると聞いて、つくづく吹き替え版で見たのが惜しまれる。
ファレルやボノの歌声が聞けなかったのは残念だけど、前作同様劇中選曲が絶妙。完璧な翻訳や豪華吹き替え陣の歌声もサイコー! 日本語版音楽プロデューサーの蔦谷好位置、吹き替え歌詞監修のいしわたり淳治、音響監督の三間雅文らが前作から引き続き続投! 世界で唯一全編吹き替えを許されただけあって、セリフと歌唱が地続きで楽しめた。

前作以上にドタバタコメディ部分が強調されてて、小さいお子様から大きいお友達まで満遍なく笑える作りを目指してる。設定や舞台装置がそもそもグレードアップしてるおかげで話もスケールアップしてる反面、夢の実現とその陰で泣かされる人たちの陰影がクッキリして見える。誰かの夢の成就のためには、他人を踏み躙ってもしょうがないと言わんばかりに見えてしまった。


まずムーンが前作以上に大迷惑野郎でホントにイライラしちゃう。普段自分が突発的な仕事に振り回されてるせいか、ああいう手合いが一番苦手。夢は語るが実現に向けた具体的な手立てはない感じ。完全に私怨含みだけど「おめえは黙ってろ!」てイライラが終始付き纏う。
一人一人の問題に向き合って、乗り越えていく物語だった前作。今作だとムーンの野望に劇場の仲間が付き合わされる形で、最後まで本人たちの希望や意志が無視される。個々人の葛藤や苦悩が一応設定されているものの、ヌルッと乗り越えちゃうのでなんだかなあ。
第一、クリスタル社長は酷いパワハラ野郎だけど、あの豪華なステージや舞台装置はクリスタルの看板と資本力あればこそ。ムーンが金持ちを騙して作らせたことは揺るがぬ事実。やってることほぼ山師。
あのあと、舞台セットや照明さんら裏方スタッフさんたちが、ちゃんとギャラ貰えたか心配。

さらには、苦労の末にできた劇中劇が絶望的につまらない。歌や音楽は当然素晴らしいけど、ストーリーが無茶苦茶。グンターが考えた話っぽいといえばいいけど、荒唐無稽すぎて観客がアレ見て拍手大喝采はウソっしょ。振付師の先生が乱入したり、本番ステージのすぐ脇で騒動が起きたり、ステージを成功させたいのか失敗させたいのか謎。

お客さんの視点がなくて、一貫して作り手/演者の都合ばかりが描かれる。
毎日の公演を楽しみにしてくれるお客さんだったり、アンコールを拒否されて放置されちゃうお客さん。ステップアップは大事だけど、今目の前のお客さんも大事にしてよ。何の説明もなく急にオーディションに行っちゃったり、ショー中止になったり……取り残されたお客さんって、もう二度と彼らのショーを見たいと思わなそう。

ミーナがキスシーンを怖がるシーン。バスターが彼女の訴えを退け、むしろ俳優としての覚悟を促すようのは、映画を始めとしたショービジネスの性加害が当然の慣習みたいで嫌な気分になった。多くの若者が監督やプロデューサーの言うがままに、意に沿わない性的なシーンを撮影されたり、その練習と称して加害を受容せざるを得ない現状を考えると、なんだかなあ…。


追記)
アトロクのリスナー評で「全方位に配慮して作ってなくて、刺さる人には深く刺さる」って褒め評を聞いて至極納得。確かに歪つで問題の多いストーリーではあるけど、全方位向けにはなし得ない背中の押し方を示してくれている作品かも。
ムーンが物語上のご都合主義的な転換点を引き受け、汚れ役を進んで請け負ってるのも座長かつプロデューサーっぽい。あくまで他人を輝かせるための役どころで、誰かの光でこそ自身もまた輝くからこそ“ムーン”……っていう褒め評には、いちいち膝を打ちながら聴いてた。



21本目
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