すず

サスペリアのすずのネタバレレビュー・内容・結末

サスペリア(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

1977年、舞台は分断時代のベルリン。オリジナル版の舞台はフライブルクで、それはどこか異次元のパラレルワールドのような、幻夢的な映像世界がとても魅力的だったけど、本作ではストーリーに殺伐と陰鬱な時代背景が絡み、それが妙にリアルに〝外界〟と〝内部〟の暗い世界観を繋げている。それは〝非現実的な現実感〟とでも言えるもので、とある舞踏一団内に蔓延る異様な空気感、非現実的な恐ろしい出来事が、何処か不思議と真実味を持って語られているような錯覚に陥る。

全6幕とエピローグで構成される。

ドイツの気鋭な舞踏団『マルコス•ダンス•カンパニー』に入団を許可された 米 オハイオ出身のダンサー、スージー•バニヨン(ダコタ•ジョンソン)は、メインダンサーの失踪や降板により空位となった、誰もが尻込みをするようなメインの座に名乗りを上げる。一団を束ねる振付家のマダム•ブラン(ティルダ•スウィントン)らの品評の末、主役の座に抜擢されたスージーは、厳しい指導を受けながら、40年前にナチス政権下で舞踏団が被った犠牲を元に創作されたという『民族』という公演演目のレッスンに励んでいくのだが…。

ダリオ•アルジェントとダリア•ニコロディが生み出した物語をベースに、現代的な感性で再構築された〝新サスペリア〟は、要所のインパクトも相俟って かなり鳥肌ものの世界観だった。

女の園に漂う美しさのなかに、時折 垣間見せるマダム達のどこかインチキ臭い妖しさは、そのおどろおどろしさも、コミカルさも、しっかりとオリジナル版の雰囲気を踏襲している。そしてホラーとしての恐怖感、残虐、グロテスクな造形と描写、オカルトチックで、悪夢的、呪術的、魔術的な要素はオリジナルを凌駕していると言っても過言ではない。

再考されて、シャープに研ぎ澄ませた脚本の方向性は、舞踏団のダンスと演目へと深く傾倒していく。前衛的で肉体的なモダンダンスの演舞シーンに、儀式的な要素が重なり、その美しさとおぞましさに感嘆した。これを求めていたという感じがした。

ダリオ•アルジェント御大は本作に対して嫉妬したのだろうか?満足したのだろうか?オリジナルには及ばずと安堵して胸を撫で下ろしたのか?はたまたお怒りか?本作の制作には絡んでいる様子がないけど、やはり本作に対する見解は一番気になるところ。

技術面では70年代の作品と比較すること自体はナンセンスで、極彩色の芸術であるオリジナルとは別物。しかし、それでも、オリジナル『サスペリア』と並べたとき、その信奉具合によって、最後の結末への受け止め方、本作への評価が個々で強く分かれそう。

自分としては大変好みな世界観で大満足という部分と、〝ダリオ魔女三部作〟の根幹をも揺るがすような意図からは、やはり亜種であると捉えるべきかなという部分とがあり、☆4.5くらいに楽しめた気持ちもあったけど、オリジナルありきの作品故の敬意は忘れずに☆4つという感じ。

もともとが謎めいた作品だっただけに、個人的にはスッキリとしなくても良くて、それよりもオリジナル版で描き切れなかった要素を補完するような感覚で観れたのでそこが凄く満足。オリジナル版でスージーを演じたジェシカ•ハーパー起用のエモさもある。トム•ヨークのスコアも美しい。好きな作品。
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