グラッデン

彼女がその名を知らない鳥たちのグラッデンのレビュー・感想・評価

3.9
『悪人』『日本で一番悪い奴ら』白石和彌監督の最新作。

カメラワークを中心とする画面の作り、全く感情移入させない最低な人間たちを描いたギリギリを突く演技表現等、作品全般に感じるアクの強さに白石監督の「らしさ」を随所に感じさせられました。

印象に残ったのは、主人公・十和子(蒼井優)を中心とした虚実混同の描写です。冒頭から違和感を覚えていましたが、その描写が現実を直視することなく、過去の素敵な思い出から抜け出せない彼女の心理状態を映し出したものだと思います。あまりに唐突な展開も、半分は彼女にとって都合の良い記憶だけを繋ぎ合わせているようにも考えられますし、その構造は本作を読み解く鍵になっていると思います。

また、登場人物の心理状態・立ち位置の変化を服装や下着の色で小まめに表していたのもインパクトがありました。そうした色合いの中に秘める、目に見えない心模様というのが滲んでくるような雰囲気は、鑑賞を進める中で引き込まれていきました。

登場人物たちが見せつける人間の深い業のようなものを散々見せつけられただけに、最後は純度の高い恋愛映画に着地するとは思いませんでした。その鮮やかささは素晴らしかったです。ただし、十和子を演じた蒼井優さんの怪演ぶりが光っただけに、NGが故に不自然さを感じる部分ができてしまったのは少し残念。