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DESTINY 鎌倉ものがたりのumisodachiのレビュー・感想・評価

DESTINY 鎌倉ものがたり(2017年製作の映画)
3.0
私は東京生まれだが、湘南で育った。小中高は鎌倉の学校に通っていた。そして両親とも西岸良平のファンなので、彼の作品は物心ついたときから家に沢山あった。

特に、『鎌倉ものがたり』は地元が舞台ということで親しみがあり、おそらく小学校半ばの頃から繰り返し読んできた。なので、今回の実写化は楽しみでもあり、怖くもありといった心境で臨んだ。

同じく西岸良平の代表作『夕焼けの詩』(『ALWAYS 三丁目の夕日』の原作)のイメージや、その独特の牧歌的な画風から、西岸良平はホノボノ系の漫画家だと思っている人は多いだろう。もちろん、どの作品もホノボノとした雰囲気は全編に漂っているのだが、作品によってはダークかつグロい展開や、猟奇的な描写、風刺に満ちたSF的世界観なども多く、基本的には相当にクセが強い作家だと思う。ドラッグや風俗なんかも普通に出てくるし。

中でも『鎌倉ものがたり』はかなりエグい方で、「ウソでしょ!?」というほど残酷な殺しの現場などがバンバン登場する。<魔物や妖怪が人間と共生している鎌倉>という特殊かつファンタジックな世界観と、<人間や魔物の欲望や本性が露わになる事件の数々>という、一見すると相入れない要素が絶妙に絡み合っているのが、『鎌倉ものがたり』の魅力だと思う。(まあ、ホノボノしているだけのエピソードもあるけども)

さて。それでは実写化『DESTINY 鎌倉ものがたり』はどうだったのか。

まずは、予想通りファンタジーに寄せていた。<魔物と共生する街・鎌倉>の世界観は見事に再現され、鎌倉に住むミステリー作家・一色に嫁いできた亜紀子の感情を通じて、観客も徐々に映画の世界観に慣れていくような仕掛けになっている。

ただし、原作が持つミステリー色は極限まで削られている。ひとつだけ殺人事件が扱われるが、それだけ。必然的に、大仏署長以下鎌倉署の面々の活躍もそこまで見られない。(ちなみに、恐山刑事の実写再現度が高すぎてビックリした)

さらに、一色先生と亜希子とのラブストーリーの要素が大きく扱われている。原作でも2人は運命の相手という描かれ方がされているし、それ自体は原作に沿っているのだが、2人の愛をストーリーの中心に据えているので、終始ラブラブしている(やや戸惑った)。

全体の構成は、よくできていると思う。原作のエピソードを繋ぎ合わせているのだが、ブツ切りにはなっていないし、上手に伏線も張れている。クライマックスで登場する黄泉の国のビジュアルも見事だし、総じて満足度の高いエンタメ作品になっている。

キャストも良い。主役の2人はとりあえず置いておいて、軽いノリの死神を演じる安藤サクラや、貧乏神を演じる田中泯などがキラリと光る。(せっかくなので田中泯にはもっと動いてほしかったけど)堤真一の演じた役は、原作にあったかどうか覚えていないのだが、彼の存在も、人間界と魔界との曖昧な境界線を示すのに一役買っていた。

主役の2人については、うーん。原作の亜紀子は相当な美人という設定ではあるが、子供っぽくておっちょこちょい。まだ大人の色気はないというイメージ。高畑充希は……あれはあれで確かに魅力的だけど、やりすぎかなあ。カマトトというかブリっ子というか。どうしても鼻についてしまった。

堺雅人演じる一色先生はイメージに近いが、原作の落ち着きは薄まっている。なんか、ちょっとガチャついているというか。

まあでも、2人の愛情関係を強調したかったのだから、原作とのイメージの乖離は、高畑充希と堺雅人のせいではないのかな。

老若男女が楽しめるエンタメ作品なのは間違いないし、キャストも豪華で年末らしいゴージャス感も味わえる。観て損はない作品に仕上がっていた。

そして、できればこれを機に原作も読んでもらいたい!原作の中から、映画に使われたエピソードを集めたコミックも出ているみたいです。
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