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テオレマのhasseのレビュー・感想・評価

テオレマ(1968年製作の映画)
4.4
○「天使と悪魔のあいだにいる、あいまいな人物」(ピエル・パオロ・パゾリーニ)

ブルジョア一家に滞在することになった謎の男に、主人、妻、娘、息子、家政婦は希望や安らぎを見出だし、男が去ると皆、身を持ち崩していく。

意味不明な展開が続くが、自然光に満たされたショットの美しさ・神秘性(主に夕景)、、顔のショットの力強さが途中から、意味を問うことをやめさせた。ただ観ることができた。

冒頭とラストを結ぶブルジョワの自己言及ーー全てを労働者に与えてしまったらどうなるだろう?ーーがキーワードかもしれない。
物質的に恵まれたブルジョワ一家は、謎の男との出会いと別れで、各々の心に生じた変化を口にする。
男が去って残るのは自分という存在の空虚さ、惨めさ、儚さ。
ブルジョワの表層的な豊かさをめくりあげ、内実の空虚さをあけっぴろげにしたかったのか、内なる破滅願望を表現したかったのか?

唯一、ブルジョワ層でない家政婦は故郷に戻り、ベンチに日がな座って草を食べ、自然治癒と空中浮遊を体得する。ブルジョワ一家から解放された瞬間に神のごとき能力を身につける彼女は、使役される労働者には実は潜在的な能力が眠っていて、それを発揮する場があるべきだということか?

とにかく、冬の夕暮れ時の淡い日光が、手持ちカメラで絶えず揺れ、事物を包み込む映像がとても好き。
全裸で横たわるシルヴァーナ・マンガーノを見下ろし、ゆっくりと覆い被さるテレンス・スタンプを仰いで撮るショットは、確かに天使のように美しくもあり、悪魔的でもある。
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