真一

私は渦の底からの真一のレビュー・感想・評価

私は渦の底から(2015年製作の映画)
4.7
 この作品の真の主人公は、好きな人への告白機会をセクマイの皆さんから奪っている私たちマジョリティーだと痛感した。差別と偏見に苦しむ同性愛者の方々の、引き裂かれるような心の痛みは、百分の一ぐらいしか理解していないかもしれないけど、それでもつらくて涙が出た。

 舞台は、もしレズビアンだとカミングアウトすれば、好奇の目にさらされる日本社会。主人公の希子は、恋するリイにコクる術もなく、親友として付き合ってきた。

 そのリイから「好きな人と同棲することにした」と聞かされ、肩を落とす希子。実家に戻ることを決意した希子は、たとえどのように思われても構わないから、自分の本心を伝えようとリイを喫茶店に呼ぶ。

 リイは、恋人を連れて喫茶店に現れた。なんと恋人は女性だった。「ごめん。気持ち悪いよね」と、希子の前でうつむくリイ。希子にカミングアウトしないまま、同性のパートナーを探し、見つけていたのだった。言葉を失った希子の目から、涙があふれていくー。

 異性愛者の場合、告白時のリスクは「ふられる」ことだけだ。同性愛者の場合は「ふられる」だけでなく、その瞬間から一生涯にわたり「あいつはアッチ系だってさ」「差別はいけないけど、事実として彼女はアレらしいよ」と言われかねない恐怖を味わうことになる。

 だから、告白できない。相手が自分と同じ同性愛者かどうか、分からないから。自分と同じゲイかどうか、レズビアンかどうか分からないから。

 同性から告白されようと、異性から告白されようと、誰もが同じように、ごく自然な反応で返せるような社会をつくる必要があるのは、言うまでもない。「うん、私も好きだった」「ごめん、できれば友達としてこれからも付き合いたいけど、いい?」。告白してくれた相手が同性でも、異性でもいいじゃないか。そう言える社会をつくる責任は、どう考えても私たちマジョリティー側にある。

 この映画、ぜひ国会で中継し、「同性婚を導入したら社会が変わってしまう」と言い放った岸田総理や自民党のお歴々に、目をかっぽじって観てもらいたい。インディーズだけど、この映画には時代を変えるだけのメッセージとインパクトがあると思う。監督の野本梢さんをリスペクトします。このレビューを読んでいただいたすべての方に、ぜひ観てほしいです。
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