あーさん

羊と鋼の森のあーさんのレビュー・感想・評価

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
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本屋大賞に選ばれた宮下奈都の小説の映画化。

素敵なピアノ曲が沢山流れるので、とても癒された。
ロックもジャズもポップスもクラシックも好きだけれど、クラシック、、殊にピアノ曲を聴くと私は、いつもこのタイトルみたいに"森にいる"ような気がする。
目を閉じると体がどんどん澄んでいくような、そんな清らかなエネルギーを感じるのだ。。
羊と鋼、の意味を知って、改めてピアノの魅力に感じ入る。

やりたいことが何もない17歳の高校生 外村直樹(山﨑賢人)は、ある日偶然、来校したピアノの調律師 板鳥宗一郎(三浦友和)を体育館に案内することになる。
すぐ立ち去るつもりだったが、板鳥のピアノを調律する神々しい姿から目が離せなくなってしまう。
雷に打たれたような衝撃、、とはこのことを言うのだろうか。
そこから彼は、調律師という深い深い音の世界へと邁進するのだったが、、

ピアノの調律の顧客である佐倉 和音&由仁 姉妹のサイドストーリーと直樹の仕事に奮闘するストーリーが上手く絡まり合って、それぞれの成長物語となっているのが面白かった。

上白石 萌音&萌歌 姉妹のピアノはおそらくほぼ吹き替えなしだそうで、かなり練習したという。
その甲斐あって、ピアニストを目指している高校生の腕前としては十二分に上手かった。
彼女達のお母さんがピアノ教師だと知って納得!

北海道の美しい自然の描写が所々に挟まれ、ピーンと張り詰めた画面を引き締めたり、和らげたり。
直樹が色んなことに気づいていく描写も、自然で優しい。

とにかく、ゆっくり、じんわり。

最初から上手くできなくても当たり前なんだよ、悩んだり立ち止まったりしても、自分の思った場所で努力し続ければ、道は拓ける、
肩の力を抜いて、心の声に耳を澄まして、、

そんな温かいメッセージに包まれた、素敵な作品だった。

三浦友和の秘めた静の演技に対して、鈴木亮平が動の演技で直樹の先輩 柳を好演。
(しかし、バンドをやっているという設定には驚いた、、それもドラム担当で、曲はEllegardenの"The Autumn Song"…⁈)

あと、本筋には関係ないけれど、事務員役の堀内敬子の声が好き ♪
(話していても歌ってるみたいな素敵な声!)

直樹の祖母役の吉行和子の存在感も、良かった。

山﨑賢人、少しずつ良い作品に出会えてきてるのかな。
今作では大袈裟な演技ではなく、ひたむきな青年を静かに、熱く演じている。
こちらの方が、きっと等身大だよね。

才能とは、
諦めない気持ち、好きだという気持ちを持ち続けること。

当たり前のようなことだけど、忘れていた大事なことを思い出させてもらった。


エンディングは、久石譲&ピアニスト辻井伸行による"The Dream of the Lombs"
ジブリっぽくもあり、溢れる想いがピアノから伝わってくる素晴らしい曲!



以下、
使われた音楽、引用された文章etc.
個人的Memo

水の戯れ ラヴェル
亡き王女のためのパヴァーヌ ラヴェル
ピアノ ソナタ Op.58 ショパン
ワルツ Op.64-1(子犬のワルツ)ショパン
結婚行進曲 メンデルスゾーン
An Die Musik シューベルト
エチュード Op.25-9(蝶々) ショパン
きらきら星変奏曲 モーツァルト
クープランの墓よりトッカータ ラヴェル
ピアノ ソナタ Op.23(熱情) ベートーヴェン
ワルツ Op.39-2 ブラームス


「砂漠の花 」より抜粋

明るく静かに澄んで懐かしい文体、
少しは甘えているようで、きびしく深いものを湛えている文体、
夢のように美しいが、現実のようにたしかな文体、私はこんな文体に憧れている…

by 原 民喜







こぼれ話 ♪

ピアノの調律師さんとのお付き合いは、私が子どもの頃から結婚して実家を出るまで毎年続いた。
一つ一つの音を手繰り寄せるような仕事の丁寧さ。やり終えた後に、素晴らしく素敵な曲を弾いて下さるのが日課だった。
普通の話好きのおじさんのような調律師Sさんが、特別な人に見える瞬間だった。

大人になった私が、社会の荒波に溺れそうになり、心が折れそうになっていた時、手を差し伸べてくださったのがSさんだった。
「しなくて良い苦労はしなくて良いんです。人にはそれぞれ合っている場所があるんです。」と言って、居場所をなくして立ち尽くしていた私に、とある歌の会を紹介して下さった。
作中の柳の知られざる苦労を思い出した。

そこで沢山の出会いがあり、そこから歌が大好きになり、今の私がある。
たまたまピアノではなかったけれど、歌が今も私の心の栄養であり、生き甲斐であり、気心の知れた友との交わりの場である。

人生はどう転ぶかわからない。
良い意味でも、そうでない意味でも。

だけど、、だから面白いのかな ♪
あーさん

あーさん