ニジム

火花のニジムのレビュー・感想・評価

火花(2017年製作の映画)
4.2
スパークスというコンビを組んでいる芸人の徳永は、熱海の小さな夜祭の営業で知り合った神谷に弟子入りする。といっても活動拠点が東京と大阪と離れているので付き人のようなことをするわけではなく、会う機会がある度に会い、酒を酌み交わす。缶コーヒーに至るまで、払いは目上の神谷だ。神谷は、弟子にした唯一の条件は、「俺の神話を書き取る」こと。

やがて拠点を東京に移した神谷と変わらぬ付き合いを続けるも、お互いなかなか目が出ず燻り続けるが、徳永は一時、ほんの少しだけ、浮上する。そこで微妙に二人のバランスが崩れて……。

同じ仕事をする者として、同じ夢を持つ者として神谷がリードしたい、先に立ちたい、という矜持が痛いほどに感じられ、痛々しく思える。二進も三進もいかなくなった神谷が東京タワーの天辺で串刺しになる姿(しかも恍惚とした表情で)が一瞬映し出されるが、あれは徳永の心の中で思い浮かべた風景だろう。

わたしたちがテレビで見て笑っている芸人は、こういった人たちのごく一部の上澄みだけだ。彼らの足元には、背後には、数多の、這い上がろうとしている、それが叶わず去って行った人たちがいる。どっちが偉いということではなく、それでも人生は続いていくということなのだろう。最後に神谷が言う「これからの全ての漫才に俺達は関わって」いるということと重なってくる。

この作品は、著者で芸人でもある又吉が見てきた、そして誰かから聞いてきた様々な人たちの集合体なんだろうな。

原作を読みそびれてここまで来てしまい、でも読んでから観ようと思っていたのにAmazonPrimeで見放題終了間近になってしまったので、慌てて観てしまった。原作小説も近いうちに。

それにしても桐谷健太は、こういう泥臭い、ちょっと格好悪い部分のある人間演じるのが上手いよなあ。
ニジム

ニジム