ひろぽん

火花のひろぽんのレビュー・感想・評価

火花(2017年製作の映画)
3.7
駆け出しのお笑い芸人・徳永は、営業先で出会った年上のコンビである「あほんだら」の漫才に衝撃を受ける。徳永はそのコンビのボケ担当の神谷に弟子入りをする。2人は仕事がなくとも刺激的な日々を共に過ごしていくが、やがて徳永の仕事が増え2人の間にすれ違いが起き始める。漫才の世界へ飛び込んだが一向に売れる気配のないお笑い芸人の徳永と、型破りな漫才でカリスマ的存在の神谷との10年間を描いた物語。


「スパースク」というお笑い芸人のコンビを組む徳永と、「あほんだら」というお笑い芸人のコンビを組む神谷との運命的な出会いから芸人を終えるまでの10年間を描いたストーリー。

売れないお笑い芸人の10年間の何気ない日常や心境がドラマ仕立てで丁寧に描かれている。これとって大きな出来事は起こらない。ありのままの芸人の人生をリアルに描いている分、意外性はないのでまったりしている。

初見で観た時は最後の最後に何か起こしてくれるのだろうと期待していたせいか、少し退屈に感じてしまったというのが正直な感想。それから5年くらい経って久しぶりに鑑賞したら、前回とは違う視点で観れたからか、心にグッとくるものがあった。

地方の小さな舞台で出会った神谷は、型破りで己の信念を貫き、おもろいと思うことを好きなようにやっている姿が輝いていた。そんな先輩に目をキラキラさせて弟子入りしてついて行く徳永の真っ直ぐな眼差しから感じられる師弟関係の味わい深さも芸人という職業ならではの良さがある。

吉祥寺の行きつけのお店に2人でよく飲みに行き、ボケとツッコミを繰り返す掛け合いがずっと観ていたくなるような心地良さがある。

徳永がテレビに出始め少しばかり売れていく中で、神谷の存在がドンドン輝きを失い自分自身を見失い、他人を模倣して落ちていく姿がとても切なかった。前半は生き生きとしていた神谷が、後半は小物のような存在に移り変わっていく描写は、徳永が神谷に対する憧れが薄くなっていることを表現しているのだろう。

夢見ていた芸人という職業の理想と現実のジレンマ。自分のやりたいことや、面白いと思うことをやっていても売れるわけではない。だからと言って、観客ウケのする大衆化された漫才をすると自分のやりたいことができない。他の芸人からは面白いと絶賛されても、芸人相手であって、観客向けではない。納得のいかない面白くもない嫌いなピン芸人の同期が売れていく焦り。やり続けるなかで分からなくなってくる自分たちの漫才。売れない日々のやりたくもないバイト生活。憧れの先輩よりも売れてしまった時の心境。お金がなくとも後輩に飯を奢る先輩。

そんな苦しい生活を何年も耐え抜いたとしても売れる保証はどこにもない芸人という難しい職業の心情がとてもリアルだった。

本当に芸人をやり続けている人は尊敬する。

特筆すべき点としては、徳永の感情を込めて語る熱い2つのシーン。憧れの神谷に対して失望して感情をぶつけるシーンと、スパークスとしてのラストライブでの漫才。1カットが長いなか、菅田将暉が魅せる本気の芝居に心をグッと掴まれた。とてもインパクトのある名場面。


“常識を覆す事に全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ”

“生きている限りバッドエンドはない”

所々に散りばめられている純文学的な言い回しがとても素敵なだなと思った。そして、芸人に引退はないことや、売れなくても無駄な芸人なんていないんだと思わせてくれる価値観がとても良かった。

「スパークス」も「あほんだら」のコンビも俳優×芸人のコンビが良かった。やっぱり芸人さんの漫才は上手いわ。

菅田将暉と桐谷健太のどちらも大阪出身だから、ナチュラルな関西弁で聞き心地が良かった。

エンディングで流れる菅田将暉&桐谷健太の主演コンビが歌う名曲『浅草キッド』が心に染みるくらい最高だった!

劇中の漫才もストーリーも面白いかと言われると微妙だが、心に刺さるものがある。

いつか売れると〜信じてた〜♪
客が二人の演芸場で〜♪
ひろぽん

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