ベルサイユ製麺

きみの鳥はうたえるのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
4.1
真空状態の心の中に、より深い虚無が流れ込む。心はその虚無を吸い尽くして、また元の濃さの真空に戻る。いつからか、こんな事を、ずっと繰り返している。


札幌。だらだらとデラシネ的な生活を送る主人公の男。
無職の青年シズオと同居し、日夜酒を飲み、愚行を働き、それなりに楽しくいい加減に日々を過ごしている。
ある日、主人公の男は職場の同僚サチコと関係を持ち、だからといって将来を誓い合う訳でもなく、彼とシズオとサチコの三人でつるみ、飲酒、愚行と…やはりそれなりに楽しくいい加減に過ごすようになった。


シズオに染谷俊太。サチコに石橋静香。
主人公の…名前を思い出せないなと思ったら、劇中一度も出てきていないようで、エンディングにもHPにも“僕”としかクレジットされてません。乙女アニメやゲームの主人公がシルエットなのと同じような趣向なのかな…。
…で、“僕”に柄本佑!最初、役柄的に池松壮亮がやりそうな役だと思ってしまったのですが、それだと『夜空はいつでも〜』になっちゃいますね。…そんな事より、柄本佑が嫌いな人って居るの?自分、彼が出てるともう目が離せなくなります。自分が女性だったら絶対メロメロになってるよ!男のままだと想定すると…ちょっとわかんねぇッス。

冒頭の夜の街のシーンが凄く好みで…
★全く伝わらない例えをしてしまいますが、↓
最初、頭の中に“フィッシュマンズ”の〈ナイトクルージング〉が流れ出したのだけど、そのフィーリングは主にシズオの佇まい、微笑みながら静かに諦念を背負うような感じからの連想で、主人公“僕”にフォーカスがあたるようになると脳内BGMは“踊ってばかりの国”に変わってました。この世の全てに腹を立てている。理屈が通じない。立っているのも嫌みたいな…。
それから、しばらくして二人に合流するサチコ。もうこの人の事はホントによく分からない。“僕”なんかのどこが良いのか…。分からなさすぎて、もう性差のせいにしてしまうぞ…。で、まあ多分(根っこの部分ではいざ知らず)、この三人に共通してるのは“期待なんてしない”って感じだと思うのです。明日はただの今日の続き。暇つぶしに働き→夜から朝をハングアウト→(繰り返し)

ホントにストーリーと言うほどのモノは無くて、三人が凧の様に風に巻かれながら漂うだけ。でも当たり前だけど三人は違う人間で、それぞれは、糸で何かと繋がってたり…、糸が途中で切れてしまっていたり…、或いは糸なんてハナからついてなかったり…で、ずっと同じ様に同じ風に乗ってはいられない。いつしかこの生活は終わる…のだけど、
…でも極論、何でも終わるしね。

繰り返しになるますが、サチコの気持ちが分からない。出来事からある程度は推測出来るけど、ホントの本当にはどう思っていたのかしら?ちょっと女性の意見を聞いてみたい感じ…。
シズオの気持ちは分かる気がする。希望を持たないことによって心の安定を維持しようとするのも、それでも尚、苛立ってしまう事が有るのも痛いほど良く分かる。…正直シズオが主人公の方が飲み込みやすいお話なんじゃないの⁈
…って思ってしまうのは、主人公“僕”があまりにダメなヤツだから。人の本気をせせら笑う。どんな相手でも誠実に振る舞えない。自分のことすら他人事みたい…。正直、“僕”に感情移入するのは無理筋だろう…と思っていたら、ラストのあの展開ですよ。なるほど。そういう話でしたか…。

↓ちょっと2行程ネタバレします







ラスト、“僕”のセリフは聞こえなくても良いくらいなんじゃないかしら。二人の表情だけで充分に響くと思う。


…このくらいなら平気ですよね?

とまあ、とにかくラストへの流れが素晴らしいんですよ。冒頭の、ちょっとイレギュラーな出来事に対して流れた“僕”のモノローグが、ラストの、遂に自発的に行動しようかというタイミングで再び流れ出す。心の声が漏れ出す。風に巻かれる凧では無く、自分の意思で飛びたてる。歌だってきっと…。

主役三人のアンサンブルが本当に心地よい。ラスト付近の石橋静香さん表情にはちょっと底知れない何かを感じました。彼等が盛り場でグダグタ盛り上がってるシーン、本当に何にも起こらないシーン、コレが邦画ではちょっと見たことないくらい尺が長くて監督の肝の座りっぷりに感服します。毎度の事ながらテクニカルな事は分からないのですが、それでも撮影は相当に良いような気がしますし、編集のセンスも好きです。あと劇伴!Hi'Spec作!これが相当にメロウで良い!函館の空気感と相まってバッチリです。プレシャスホールとかあんな感じなのかしら…。omsbも短い出番ながら存在感を示してましたね、…は良いんですけど、早くSIMI LABアルバム作れ!
そして、SIMI LABクルーには悪いんだけど、観終わっら無性にやけのはらのラップが聴きたくなってしまった。THIS NIGHT IS STILL YOUNG!!

三宅唱監督、実は初見なのですが、もうめちゃくちゃ好みです。今後も期待しか無い!