ダイナ

ハウス・ジャック・ビルトのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

主人公ジャックによる数多くの犯行、その中から選定された5つの出来事が本編にて語られる構成。不快な描写は盛りだくさんなわけですが、最後まで退屈させられることが無かったのは、映し出されるビジュアルの迫力や、ヴァージとのユーモアあふれる対話のおかげかもしれないと思いました。

カンヌにて途中退出者を出した問題作、と挑戦的な宣伝をする本作ではありますが、個人的にはそこまで身構えるほどのものは無かったかと思います。ただ、「3rd incident」の残酷描写は本作で一番キツかったです。グロとか痛覚に訴えかけるようなものも苦手ですが、3rdのような描写がキツい。次点で・・・意外とアヒルのあれかな・・・。

それでも最後まで見れたのは過激かつ迫力ある場面や、ジャックによるアートのおかげだったのかなと思いました。例えば、2ndで被害者を車で引き摺りながら走り去るシーン。ノリノリなBGM、痕跡にあれだけ気を使っていったのに血をベッタリと残しながら走行するさま、笑っちゃうほどタイミングよく証拠隠滅してくれる雨など、先程までの殺人シーンとうってかわってどこか抜けたような展開、不謹慎ではあるんですが「今後はどんな殺人を起こすんだろう。」と、後の展開にワクワクさせてくれたり。また、3rdのラストで狩りの成果を飾る場面。綺麗に並べられた死体はどこか絵画のようで、精神疲弊させられながらも、圧倒され見入ってしまったり。(てかカラス狩りすぎだろ・・・)5thの「家」については、死体の冷凍保存、剥製技術、建築における素材のこだわり等、これまでに描写された要素が噛み合わさって完成されたわけで、これまた不謹慎ながらジャックが手掛けたアートの中でも一番気に入ったりしてます。映画のエンドロールなんかはもう不快とか難解とか通り越して清々しさを感じましたよ!

5thのヴァージ登場シーンについての個人的な感想。冷凍倉庫内、死体を保管していた隣の開かずの部屋については、部屋自体に「建築」に関する思いを重ねていたんじゃないかなあと思ったりしました。ジャックは家を建てたいという夢を持ち、また芸術を追求するように殺人衝動に駆られていました。冷凍庫の隣の部屋は序盤から何かがつっかえていたようで開きませんでいた。終盤、誘拐した男達に照準のピントを合わす距離を作るため、今まで放置していた開かずの部屋を強引にこじ開けるわけですが中に人、本作で語り相手となっていたヴァージが現れます。密閉空間に身なりの整った老人が存在するはずがないので、ヴァージはジャックの脳内にあるイメージなのかなと。そこでヴァージが一言「家はどうなった?」と。開かずの部屋を開けヴァージの声を聴いた事で、自分が使うべき「素材」を理解して家の建築にとりかかれたんですよね。殺人衝動(アート)と家の建築はジャックの中でくすぶり続けていた二大要素であって、死体を保管していた部屋が「殺人衝動」の印象なら、隣で開かなかった部屋は殺人の印象に密接していた「建築」に対する思いだとか閃きとかだったのかなあと思いました。これまでの限られた空間から、増大していく殺人衝動によって開かずの部屋が開けられ(=新しい空間が生まれ)、自身に制限されていた思考に別の視点が加わったのではと。ジャックは冷凍倉庫のドアから警察に撃たれた時に死んだのかなと思いました。

精神的に削られる映画ではありますが、ところどころ脳内でツッコミを入れることも多かった本作。「なんで助けてもらってる男にそんな悪態つくんだよ!ジャッキそんなとこに置くなよ!警戒深かったのに年金の話で入れるなよ!身分隠してるってだけで怪しすぎるだろ!弱い所見せられたからって安心してまた家入れるなよ!」などなど思い出せる範囲の一例。「そんなことすんな!やめとけって!」と思うことが多々ありましたがまさか最後ジャックに対してこの言葉をかけたくなるとは思いませんでした。いやまあでも当然の結果なのかもなあ。

2ndでガッツリ警察官と会話してましたけど失踪人物の家の周囲で待機している男なんて確実に指名手配コースですよね。エピソードの時系列がバラバラなのか、あの警察官も即座にターゲットにされたのか。でもあの玄関口のグダグダから殺人計画に慣れていない感じがするから初期の頃?。指名手配はされていたもののジャックに辿り着くまでの情報記載には至らなかったと考えるのが良さそう?
ダイナ

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