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ハウス・ジャック・ビルトのpikaのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
4.0
笑えるんだけどめっちゃ腹立つし不快だしイライラしてくる。最高なんだけど最低。めちゃくちゃ面白いけどゴミクソクズカス。マジなのかわざとなのかのラインをギャグで処理してくれてる親切設計。芸術の扱い方やトリアー自身の作品を挿入してくる演出、思想丸出しな感じなど「トリアーだしねぇ」と納得できちゃう微笑ましさ。
トリアー作品への抗い難い嫌悪感が上手く作用しているしコメディへ振り切ってるところも良い。
最高と最低と困惑と快感が一緒くたにごちゃ混ぜになったバランスが新鮮で、殺人鬼の自分語り映画ならばこうでなくてはならないと唸る仕上がり。

ただちょっと飽きる。瞬間瞬間は面白いんだけど濃いものが形を変えてどんどん押し寄せてくると胸焼けを起こすし、脳が疲れて何を見てるのか処理能力が追いつかなくなる笑。
これが物足りないくらいの分量で悶えさせて終わってたら個人的にトリアーベスト更新してた。何はともあれ傑作だと思う。

初めは不安定だった主人公が自信に満ち溢れ殺人がライフワークとなってノリノリになっていく、語り手である主人公のテンションが上がるほどにこちらの忌避感も強まり、抗い難い嫌悪感に覆われ、画面への拒否反応が高まる、それが鑑賞の刺激となり快楽となるっつー得難い体験ができる。これぞ醍醐味と言わんばかりに徹底されてるし最大の魅力になっている。見て3ヶ月くらい経ってるけどインパクトはなかなか薄れません。

語り手の主観を体感できたり、描かれるキャラクターに共感してしまえる映画という媒体は、自分とはかけ離れた不可解な人間の思考は絶対に理解することができないという事実を改めて理解するに最適なメディアなんだなとしみじみ実感。
殺人鬼映画ってのは笑っちゃうくらい不可解で不条理で滑稽過ぎて笑えるくらいじゃないと成立しないんじゃないかと勝手に考えていて、人を殺さない側の人間が共感できちゃったり感動しちゃったり普通にエンターテイメントとして楽しめちゃう映画だったらむしろダメでしょうと、作り手の個人としての能力や力量を最大限に発揮し試せる恰好な題材だと思います。面白かった。もっと色んな監督による色んな狂気を見てみたい。

強迫性障害のシークエンス、クライマックスのフルメタルジャケット弾、エピローグのシークエンスは超ツボだった。最高過ぎて悶えた。
家族のシークエンスは目の前にトリアーがいたら殴り飛ばしてるほど不快だった。
怒りに駆られたり楽しめたりただ映画を見てるだけなのに喜怒哀楽が体内に入り乱れてまんまとやられた感はありますが、だから映画っていいよね。良かったです。
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