むーしゅ

ピザ!のむーしゅのレビュー・感想・評価

ピザ!(2014年製作の映画)
3.6
 最近インド映画見れていないなと思い、前から気になっていた作品を観賞。世界有数の人口密集地として知られる南インドのチェンナイに暮らす兄弟がピザが食べてみたいという一心でひたむきに頑張る話。2人はスラム出身ですが舞台となったチェンナイはスラム人口が多いことでも知られていますね。


・フィクションと強調される冒頭

 まず作品冒頭で驚かされるのは、この物語がフィクションであることを示すテロップが登場することです。日本でもよく「このドラマはフィクションです。」という表示が終了後に出ることがありますが、こちらは冒頭にしっかりと。なんとなく、現代においてもこのような事件が日常的に起きている国であることを表現すると、海外の映画祭への出品なんてとてもじゃないけど無理と考えたかのような、結果的にすごい皮肉に見えてしまっています。と言っても、映画を見ていないひとには何のことかさっぱりだとは思いますが、この映画は後半が攻めているんですね。


・皮肉がパレードする後半戦

 その後半戦なのですが、まぁ想像とは違う物語なんですよ。前半はただひたすらに子供たちが可愛い映画なんですが、後半に入るとそこへ大人の様々な思惑が混ざり始めて、格差社会に対する風刺的な作品になっています。ファーストフードのピザを食べたくても買うお金すらない人達がおり、漸くお金を貯めても今度は入店拒否される。結果的にはピザだろうが、ハンバーガーだろうが、ドーナッツだろうが何でも良く、とにかくこの根強く残る格差問題にグローバル化の象徴としてのピザがメスを入れているんですね。

 また後半に登場する動画が拡散という展開はいかにも現代的。個人が自由に繋がっていける現代の社会において、例え自分が世界との繋がりを持てていなくとも、必然的に繋がっていってしまうということを証明するかのようで面白いです。


・子供達がみせる忖度

 そして本作の魅力は何といっても主人公である子供達2人の成長です。物語の最初におねしょをしていた弟がしなくなったことに成長を感じるだけではなく、最後のシーンに2人の忖度を感じてしまうんですね。台詞そのままに受け止めても良いのですが、彼らが普段口にしているものはお祖母ちゃんの愛情がつまっているものである背景を理解するとまた幼さの中の忖度を感じざるを得ません。

 ちなみにこの兄弟を演じた2人はどちらも役者ではなく、まさに演じた役と同じような暮らしをしている子供達です。監督は様々な子役のオーディションを実施したそうですが、スラムで暮らす子供達が持つエネルギーを表現できる役者がおらず、他のスタッフの反対を押しきりあえて演技経験の無い子供達を選んだそう。そこも見所ですね。


 やっぱりインド映画はビタミンのようなものですね。たまに摂取すると、なんだか心が元気になるような。本作は後半戦がちょっぴりいつもと違いますが、日常につかれた時には是非見たい作品です。
むーしゅ

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