阪本嘉一好子

アヤは海辺に行くの阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

アヤは海辺に行く(2015年製作の映画)
5.0
いつどこの作品か明記されていないが、モロッコ?のどこかの町で海に近い場所の作品だろう。アヤ(Nouhaila ben Moumou,)は台所で椅子に乗って皿を洗う少女(10歳?)で家政婦。鍵を外からかけられ、内から開けられないような状態で、ゴキブリのような虫の出る納屋のようなあてがわれた部屋にいる。モロッコでは15歳以下は正式に働けないらしいが?こういう児童労働も監督の問題提起の一つかもしれない。

「Aya Wal Bahr: Aya Goes to the Beach 」と言う、十七分の映画の中で意味することは実にたくさんある。

タイトルとストーリーの関連性を考えてもいいねえ。
アヤの一人での生活(主人はいるが、命令に沿って動くだけ)の中から、隣人、ハビバと一緒に『置かれた環境』をどう共有して自然に喜びを見つけ出す力、についても考えられるねえ。例えば、映画の初めの方で、隣をノックすると、隣からノックが帰ってきて、それが、お互いに眠る合図のようだが、ここにも共有感があるねえ。
アヤの雇用主に対する(少しだけの?)抵抗。例えば、コヒーに自分の髪をつけたり。。
アヤのティーンエイジャーになる芽生え(化粧)。そして、雇用主の言葉を真似てひとり遊びをする。子供のお母さんごっこのようだが、アヤの会話の機会は雇用主と隣人のハビバしかいないからね。この二人が、模範のようなもので、それを真似ているのだ。
小中学生ぐらいのアヤの一見子供の側面(ヌテラを食べながら、アニメを楽しむ)その反対の側面(料理、掃除)などをこなす動き。その中で、一羽の鳩と知り合って、友達意識を共有するアヤ。
それに、モロッコ?アヤへの教育の低さ(識字率が低い)その中で、学ぼうとするアヤの好奇心。雑誌にあるフランス語をコピーしてみる。アヤが絵を描いたり、字の練習をしている紙をなぜ、ぐちゃぐちゃに破ったりするのかちょっと理解に苦しむけど.....フラストレーションの現れで、母親の元に帰っても歓迎されない自分を知っているから?? それとも、また、鳥(ハト)かごのように戻されるから。ここが読めなかった。 
 
私にとってハイライトは、上記の状況に置かれていても、そこから人生を見出していく力強さである。そこに一番感動した。その中から、身近な人(隣人、ハビバ)との共通性を意識して助け合う。このアヤが考え出した能力というより、彼女の人生経験で身についた本能的思考能力に感激する。モロッコはイランのような国ではなく、どちらかというと、宗教色がより弱いトルコなどのような国だ。でも、この映画でもわかるように、「ラマダン明けのイード・アル=フィトルのために買い物に出ていると」と隣人のハビバはいう。それとは対象にアヤの雇用主はラマダンなのに、明るい時に朝ごはんを食べている。ましてや、アヤに朝ごはんが『遅い』と不平を言っている。ラマダンは感謝の言葉を言うが、不平や悪い言葉を使わない日だが、雇用主には関係ないように描かれている。ラマダンあけ、イード・アル=フィトルは特別な日なので、隣人ハビバも海のそばの姪の家に食事に行くという。アヤもそれに対して、母親が迎えにきてくれ、ドレスや母親に買う香水についてまで、ハビバに話しているが、よく、ハビバを観察すると、『アヤはそんなことはできないよ、可哀想な少女』とでもいいたそうに目線を落とす。香水を母親に買うとは言いながら、全財産は小銭しかないけど、ハビバはベストの香水が買えるよって。泣けちゃうな。アヤの母親を思う心を理解してあげてるね。アヤは口減らしで、売られたようなもの。(逃げないっように?)外にも出られないのが現実だが、それはハビバは言えないし、ハビハのイード・アル=フィトルの予定も信憑性がないようだね。
鳩を自由にして、自分も解放したつもりになっているが、現実はサンドウィッチを二つ買うだけの現金しか持ち合わせていない。それを、ハビバと
一緒にイード・アル=フィトルを祝うために使う。残された、自分の抱えている現実をどう生きていくか。メディナ(medina )をハビバを乗せた車椅子を押して海岸へいく。サンドイッチが二人のイード・アル=フィトルのご馳走になる。

マリヤム・トゥザニ監督はモロッコの国の中に潜んでいる動かし難い文化、それも、現状維持下に置かれている問題提起があっても、変化の少ないモスリムの慣習文化。例えば、ここでは宗教、モスリムからくる男女差別が『認識下に置かれない』現状をマリヤム監督は少しずつ手に取り、表現している。うっかりすると男女差別のある国で育つと、それを見逃しちゃうということにもなる。
マリヤム・トゥザニ監督はオムニバス作品のRazzia(2017)ので主役である。伴侶のナビル・アユチ監督がRazzia監督であるが、このふたりが制作するどの作品からも、生きる力強さを感じる。

無料:https://www.youtube.com/watch?v=OBUgZSEPSts&t=328s