海

きつねとクジラの海のレビュー・感想・評価

きつねとクジラ(2016年製作の映画)
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2018/8/18 こんな夢を見た。さむい冬の日に猫が死にかけた。わたしは猫をどこかへ連れて行くために抱き上げた。つき刺すような冷たい空気のなかで、猫の体温を感じている頬と肩と胸だけがあたたかかった。外は雪が降っていた。猫はいつものように抱かれるのを嫌がらなかった。今は抱きあげても大人しくやわらかいままの猫だった。それは幸福であってほしかった、そのときはひどくこわいことだった。真夜中、こうこうと雪が降っていた、わたしは弱りきってただぬくいだけの猫を連れてどこへ行こうとしていたのか、たぶん、遠いところへ連れていきたかった。もうほかの誰かや何かから守ることも、人や時間のままならなさのために何かを我慢させる事もなかった。季節のかわり目に猫の白い毛が部屋を舞うとき、わたしは天使が羽を落としていったのだと思う。みるみるうちにつよくなっていく雪、ふと目をこらせば、雪は羽の形をしていたのだった。


今日の午後、猫が本棚に入れていたわたしのスケッチブックを全部引っ張り出して、その上で眠っていた。わたしはそれを見て、ずっと本棚をこんなふうにひっくり返されたかったような気がした。悲しくても涙を流さないのに涙を知っていて、ことばは話せないのに自分の名前を知っていて、詩を読むことも図鑑を観ることもしないのに、愛も鳥も知っている、ミニー・リパートンの声が小鳥に似ていることだってちゃんと知っている。わたしの猫。わたしと出会う前の日々を憶えているの?何もかもおぼえているような目で見つめられるたびに、言葉を失くしそうになる。
今夜のベルの額は水族館の匂いがする。首の後ろは西瓜の匂い。この小さな身体のなかには何億年の命と数えきれはしない記憶の余波が流れている。クジラに出会うきつね。わたしに出会うあなた。あなたに出会ったとき、わたしは生まれ変わったのだと思う。
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