MikiMickle

ゆれる人魚のMikiMickleのレビュー・感想・評価

ゆれる人魚(2015年製作の映画)
4.0
アグニェシュカ・スモチンという女性監督の初長編映画。2015年ポーランド映画。

時は、共産主義下にあった80年代のポーランド。

とある入江で歌い踊る3人の前に現れたのは、海から顔をだす女性二人。「私たちを陸にあげて。食べたりしないから」と歌う。

所変わり、あるナイトバー。
バンドの生演奏と共に裸体でショーを魅せる彼女たちの姿があった。
その独特な魅力から、一躍スターへと躍り出る2人。

海からあがった(シルバーとゴールデンと名付けられた)姉妹にとって、全てが初めての経験だった。
大人でもなく少女でもない多感な時期の彼女たちが見るものは、全てが刺激的で。

しかし、姉のシルバーがバンドメンバーの若きハンサムなベーシストと恋に落ちた事により、歪む関係性。
複雑な心境のクールな妹ゴールデンは、我慢出来ずに夜の海辺へと男を誘う…そして…
彼女たちは、人間の心臓を食らう人魚だったのだ。


人魚姫のおとぎ話をモチーフとしたこの作品。
ミュージカルの手法を用いて(ミュージカルシーンは多くはない)、その世界観は時に突き抜けるほどポップで楽しげで可愛らしく、時に幻想的でロマンティック。

オープニングのアニメーションで描かれるのは、2人の人魚とドクロであり、そこからすでに、おとぎ話の残酷さとそんな絵本を読んでいるかのような雰囲気をかもしだしている。

随所に渡り、不可思議な嫌悪感や、不可思議なズレを感じさせる細かな作り。
人魚たちの、決して美しいとは言えないリアルで長い魚バージョンでの下半身と、それとは全く違う人間バージョンでの特異な、妄想的処 女性の下半身のあからさまな違いの意味。生臭さが漂ってきそうな怪物であるときちんと生々しく見せる意味。
ディズニーによって美化されて消されてきた寓話の本来の闇部分を、独自の目線により描く美しさ。

前半だけでも、それを感じた。


後半は、ピュアさの一方で、人間の複雑に絡み合った関係がこの映画の闇の深みを増していく。
嫉妬や歪みや……心の痛みや……エゴや……
そして、想像もしなかった展開へと物語は進んでいく………
そこに待っていたものは……

秒単位でしか映らないような些細なシーンでも、きちんと感情や時代背景や状況を映す細さに、脱帽。
ミュージカルでの歌詞も同じく、どれも意味深で興味深い。例えば、「何故なら 私もあなたも悲しいから私たちが悲しんでるから 彼も悲しむあなた達も彼らも みんな悲しんでる誰もが 暗く沈んだ気持ちでいる」というシーン。それは、楽しげで幸せな雰囲気とは真逆の歌詞で……胸を刺す…

全く内容も全然違うが、スペインの風変わりな映画『マジカル・ガール』を何故か思い出した。ポップで幻想的な痛々しさという面で……
そして、『RAW』とはかなり共通点が多く、どちらも“少女”から“大人”への過渡期と変化を独自の目線で描いていた。
また、『シェイプオブウォーター』は半魚人に恋をする中年女性目線であるが、こちらは人間に恋をする人喰い人魚少女とその姉妹目線で、よりクセが強い。前半の可愛らしくポップなミュージカルシーンは、後々のシーンを際立たせていた。

独特の雰囲気と空気感。レトロで、キュートで、ポップで、不可思議で、残酷で、退廃的で、毒のある、痛々しく、深い悲しみのある ダークホラーファンタジー。
正しく、大人のための童話。少女から大人へのメタファー。ものすごくツボ。良い作品だった。

余談。パンク好きとしては書いておきたかったのが、ゴールデンがパンクバンドに混じって歌うシーンが非常にかっこよく‼ マイク奪って歌いたいのに女性ボーカルに蹴落とされたりするのとか80年代東欧のパンクシーンを体感しつつ、謎の男のひょろひょろモヒカンに爆笑したり、クールなゴールデンが行き着いた場所がここなのかと思いつつも、やはり違うのかというごく些細な描写もあり、なんか好きなシーンだった
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