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赤線地帯のkerolineのレビュー・感想・評価

赤線地帯(1956年製作の映画)
5.0
時は、売春防止法が成立される以前の1950年代。
警察犯処罰令が1948年に廃止され、売春行為を処罰対象とする法的根拠が失われていた時代が存在していた。
国家が売春を半ば黙認していた時期と言えよう。
本作の舞台は当時の私娼街、吉原。
売春防止法の国会提出と廃案がゾンビの如く繰り返される中、
特殊飲食店「夢の里」で女給として勤める女たちの人間模様を生々しく描いている。

ああ、溝口健二監督らしい遺作だなぁと思ってしまった。
淀川長治とおすぎの映画対談で本作が話題に上げられていたのを見たことがある。
対談中に二人も語っていたが、ともかく雰囲気が暗い。
女給たちの表情や背負っている運命、吉原の街並、音楽、全てが暗く異様に見える。
モノクロの映像も相まってか気味悪さが増して感じられる。

だが、淀川先生は別の視点を持っていたのではないかと思っている。
芸者置屋で生まれ育った淀川先生は、女給たちの境遇に親近感と憐憫
の情を持って本作を観ることが出来たことだろう。
"現代に生きる人間"と"当時を生きていた人間"では、同等の視点で本作の内容を受け止める事は不可能に思える。
私娼街で実際に勤めていた女給たちや足を運んでいた客らが本作をもし観ていたら、どのような感想を抱いたのかも気になるところだ。

赤線青線に関する資料が現在では広く出回っているが、
当事者は高齢化し、多くの方が鬼籍に入っていることだろう。
また、吉原に限らず私娼街の香りを残す遺構も徐々に消えつつある。
特殊飲食店というものが実際にどのような建造物であったのか、それを実際に目で見て感じられる時間はもう残り少ないことだろう。
本作を観た人には赤線・青線跡にも足を運んでもらいたい。
その上で再視聴すると、また別の視点で内容を感じる事ができるはずだ。

また、遊郭跡の特殊飲食店にありがちなタイル調の壁や円柱、アーチ型の入り口、ひょうたん型の窓、カフェー建築などが劇中の様々なシーンで登場する。
当時の私娼街を忠実にセットで表現しているのだ。
細部にまで拘りを感じる事ができる。

...ん?ここまで拘れるってことは、監督や製作スタッフは私娼街に通いつめていたってことか?
彼らがどんな遊び方をしていたのかも気になるところだ。
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