parsifal3745

赤線地帯のparsifal3745のネタバレレビュー・内容・結末

赤線地帯(1956年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 赤線のイメージは、江戸時代の吉原物の延長のように思っていたが、この映画を見て改めることができた。花魁とは違って、何とか生き抜こうとする普通の女たちの物語だった。
 汚職で逮捕された父の保釈金を払うために身を落としたやす子(若尾文子)、親への反発で黒人兵を相手してパンパンガールになっていたミッキー(京マチ子)、旦那に死なれ、貧乏な祖祖父母、一人息子の修一のために働くゆめ子(三益愛子)、病弱で失業した夫と赤ん坊を養うために通いで働くハナエ(木暮美千代)、売春防止法によって借金がチャラになると聞き、思いを寄せていた男に身を寄せるより子(町田博子)。
 売春防止法が成立、施行されれば、明日から体を売ることができなくなり、他に稼ぐ手立てがない女たち。事業主の「ゆめの里」の夫婦は、人助けと思ってやっているんだよって欺瞞を吐く。彼女らは、生き抜くため、金を稼ぐために、道行く人に黄色い声で客引きし、愛想や毒を振りまき、逞しく生きている。客に見せる姿と現実のギャップが凄かった。
 前半は、主に店の様子が描かれ、それぞれの女のキャラクターや羽振りなどを扱っている。それが後半になると、各個人の事情にフォーカスして、その問題や末路が描かれていた。メリヤス屋のにこにこ堂の主人や支配人に色目を使って貢がせていたが、所帯をもち足抜するために金が必要と支配人に持ち掛け、首を絞め殺されかけるやす子。噂が聞こえていき、家の評判に傷がつくといって引き取りに来た父に対して、母に苦労ばっかりさせてと邪険に返すミッキー。田舎まで母の噂が聞こえていき、いたたまれなくなって都会に飛び出してきた息子に縁を切ると言われ狂ってコンクリート製の精神病院に入れられるゆめ子。家賃が払えず赤子を連れて行く当てもない夫をなだめ、事業主に借金をお願いしようとするハナエ。身を寄せた男の家で、奴隷のようにこき使われて「夢の里」へ戻ってくるより子。
 多くは夫や家族の犠牲となって、最後の手段として「夢の里」に流れてきたのだ。とかく汚らわしい商売とみられるが、それぞれの事情は切実。唯一汚い方法で男から金を巻き上げたやす子だけが、つぶれた「にこにこ堂」の後釜に収まって、店を切り盛りし始める。男で身をやつしたのだから、男からむしりとってもいいという論理か。特別なコネや運がない限りは、汚い手を使わないと這い上がれないっていうことか。
 「赤線」の人間模様を描きながら、当時の社会が抱える男尊女卑、女性の置かれた立場、男に頼らずに生きる大変さが等が描かれていた。
 今の日本、豊かになると同時に、性の産業の有り方も随分と変わってしまった。性が軽く売られるようになったのを、どう考えたらいいのか?難しい。
parsifal3745

parsifal3745