竜平

ナンシーの竜平のレビュー・感想・評価

ナンシー(2018年製作の映画)
3.7
病気の母と暮らす女性ナンシーがある日テレビ番組にて、30年前に行方不明となった娘を探す老夫婦とCGで再現したというその娘の現在の顔写真を目撃し、それが自分とそっくりであることに気づいて、という話。

まず、この感じのあらすじとポスタービジュアルからホラーあるいは暗めのスリラーを勝手に予想(期待)してたんだけども、そうでなく今作はわりとがっつりヒューマンドラマ。物悲しく儚く、しかしどことなくほっこりな作風となってる。そんなこんなで初っ端から変な肩すかしをくらってしまった、ってのは個人的及び本当にどーでもいい話ね。主演が『オブリビオン』や『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』などにも出てるアンドレア・ライズボロー。美人な容姿とは裏腹に作品によって雰囲気やら空気感やらガラッと変わる、素敵で素晴らしい女優だなーなんて。変人やクセ者じゃないスティーヴ・ブシェミはなんとも新鮮。主人公の何気なくもなんだか良からぬ空気感が漂う日々の生活というのを映す前半。嘘をついたり、母親との間に何やら確執が見えたり、でそこから前述のあらすじの流れに。不安感なのかなんなのか、主人公に募っているであろう何らかの想いというのを表情やちょっとした言動で見せつつこちらに推測させる演出、今作はこれが見事で細かな説明を敢えて省いてる印象すらある。疑心と期待とが入り混じる老夫婦の様子も非常に印象的。この物語の行き着く先をきっと見届けたくなるはず。

序盤でわりとサラッと描かれる主人公の性格、生き方、思考などがじつは諸々伏線になってるわけだけど、謂わば「嘘で塗り固められた人生」を送るナンシーの言動というのはどこか怪しいし危ういし、見てるこちらからするとどのようにも取れてしまうからおもしろい。で、どんでん返しとかではない、けれどもラストでようやく見える真実や主人公の成長にも似た変化など、前述したようにヒューマンドラマとしてグッとくるものになってると思う。なんだかじんわりと響いてきて、ほんのり余韻も残る感じ。

本当に関係ないんだけどね、鑑賞時にはホラーあるいはスリラーを欲してたもんで自分の気分のものと全く違うのが来てしまった残念さが多少あり、このくらいの点数。作品はわるくない、俺がミスっただけ。いやでも、このポスタービジュアルといい邦題のフォントといい、勘違いしちゃう人俺以外にも絶対いるでしょ。
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