笹井ヨシキ

アトミック・ブロンドの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

「ジョン・ウィック」でチャド・スタエルスキと組み、87eleven action designという会社で日夜アクションコーディネートを研究するデヴィッド・リーチ監督の最新作ということで、鑑賞して参りました!

観た感想としては「アクションすごい!グラフィカルな照明使いや音楽がかっこいい!ベルリンの壁崩壊の時のアングラな雰囲気が良い!でもお話は・・・」という感じで、良い面とそうでない面がはっきり分かれている作品でした。

まず言えるのはシャーリーズ・セロンが命がけで臨んでいるアクションは滅茶苦茶素晴らしいし新しいということです!

女性の細腕や蹴り一発で男たちが倒れるような従来の形式ばったアクションではなく、大男に反撃されフラフラになりながら二発三発とダメージを蓄積させることで「女が男に勝つ」ということに説得力をもたらす画期的なアクションは、もうそれだけでこの映画の価値を間違いないものにしていると思います。

序盤の車内での戦闘のド派手なんだけど「手始め」な感じから、パーシヴァルのアジトでの身の回りにあるもの(特にホース)を使ったvs多人数の戦い、逃走劇の末にあるメインディッシュの長回しアクションと、観たことない戦闘の連続でスゴイものを観たという感じはしました。

特に階段での戦闘は襲ってくる男もしぶとく命がけで襲ってきて、双方血反吐を吐きながら体力を削り合う様相は鬼気迫るものがあり、スタイリッシュではないですが洗練されたカッコ良さがありました。

(一応)話し合いを持ちかけて来てる男の顔面に迷いなく鍵をぶっ刺すシーンのロレーンの迷いの無さは、「誰も信用するな」という言葉通り、真実は自分の中にしかないとわかっている感じもして良かったです。

「壁の崩壊」によりあらゆる境界が消失する寸前の混沌としたドイツの雰囲気もたまらないものがあり、ブルー照明による寒々しい空気の中、男よりも男らしいセロン姉貴が「赤」をもたらしていく演出の面白さもあり、ソフィア・ブテラとのランデブーシーンでの色の使い方の美しさにも印象的でしたね。

衣装によりロレーンの属性を示すところもカッコよくて、冒頭白いコートに身を包み、黒い服を着た通行人の流れに逆らっていくところとか、ロレーンが一瞬たりとも「弱さ」を見せる演出がなく、映画全体が堂々としいて楽しかったです。

だからアクションと全体的なビジュアル、セロン姉貴は圧倒的に良いのは否みようもないんですが、個人的にはそれ以外の部分で足を引っ張っていて、個々のシーンの素晴らしさは認めつつも、全体的にはそこまでアガらなかったというのが正直な感想です。

まず、この作品が好きな人も「話が分かりにくい」ってことでは恐らく意見が一致すると思うんですよね。

まあ話が分かりにくいってのは必ずしも悪い事ではなく今作のようなカオティックな世界観の描写には合っていて、「混沌とした世界で一人生きる主人公」という構図を作るためには間違った演出でもないと思うんですよ。

でも最後に「ロレーンは実はこっち側でした」的な結末を持ってきて、あたかもそれがお話のメインであるかのように収斂していってしまうのは、流石にちぐはぐな感じがするというか。
終盤になるまでそこまで気になるサスペンスとして引っ張っているわけでもなく、騙し合いのようなコンゲームものとして目配せしているわけでもないので、「うーん、どうでもいいかな」とか「え?そういう映画だったの?」と困惑してしまいました。

それに回想形式に加えて群像劇のスタイルを取るのも構成をこねくり回しすぎな気がします。ロレーンが語り部であるという感覚があまり味わえず、「この話自体どこまで真実であるかわからない」といったような面白さも逃げてしまっている感じがして、「ジョン・ウィック」のようにシンプルな構成にすれば良いのにとか思っちゃいました。

サスペンスや騙し合い、「真実かどうかわからない」といったような要素を欲張って盛り込み過ぎで、でもアクションの味が一番強いからそれ以外は押し負けているようにしか思えずジャマにしか感じなかったです。

まあこの辺は好みの問題もあるし、ストーリーが良くわからないのは自分の頭が悪いだけかもしれませんが、良く分からないものには興味が持てずロレーンの人物像にもそこまで愛着が持てなかったのはちょっと残念でした。

とはいえ、やはりアクションは本当にすごくてデヴィッド・リーチ監督の次作「デッドプール2」はもっと期待できると思いました!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ