シネマノ

ワイルド・スピード/ジェットブレイクのシネマノのレビュー・感想・評価

3.4
『映画を救うシリーズの9作目は、嬉しくも寂しい"変化後"の一作』

映画館に人が多い。すっかり見なくなっていた客層も。
動画配信の隆盛とコロナによる劇場の苦境。
そんな事態であっても映画館に老いも若きも引き寄せる大人気シリーズ【ワイルド・スピード】。
ナンバリングタイトルとしては9作目の【ジェットブレイク】は、変わらないものと変わったものが交錯し、少し寂しさが募る一作だった。

作品を経るごとにスケールが拡大され、もはやヒーロー映画のような佇まいの本作。
カーレースとクライム、そして友情をシンプルかつアツく描いた一作目から、随分と遠くにきたものだ。
本作には、ちょいワルがパーティと車を愛しながら世界を救ってしまう日々はない。
作中のキャラクターもしきりに口にするが、車とスリルだけに生きた日々は遠い過去だ。
全編にわたって漂う、時間の経過による寂しさとスケールアップに伴うキャスティング(確執も)の苦労。
デカくなり過ぎたシリーズの苦しさがにじみ出ている。

それでもド級のカーアクションと高級車、モンスターマシーンの狂宴は楽しいに決まっている。
地雷原をバイクで駆けるレティのかっこよさにはシビレた。

ジェイソン・ステイサムとドウェイン・ジョンソンなき本作の格闘については、目新しさも迫力もない。
脚本についても何も言うことはない。アホだ。確信犯でアホなのだから、何も言うまい。
広がり過ぎたターゲットに対して、楽しみを提供するのに整合性も何もあったものではないから。
ここへきてドミニク、トレット家にフォーカスが当てられた分だけ飽きずに楽しめた。
(というより、9作目に至るここまで深い描写なく人気を獲得したのが、本シリーズの勢いと魅力を象徴していたのでは…とも)

小学生のとき一作目にハマってから20年、とっくに大人になってしまった自分と、新しいターゲットも取り込み縦の"進化"ではなく横への"変化"を遂げるシリーズとの距離感が切なくもあった。
もちろん、楽しかったのは間違いないし、終盤の狙いすましたお約束はグッときた。
だからこそ、ラスト2作と言われている10作目と11作目では、スケールの拡大だけでなく、シリーズの円環を締める深い展開を期待したい。

ラストは空でも海でも、氷河でも宇宙でもなく、ゼロヨンにフォーカスを当ててくれたって、全世界は熱狂するはずだから。
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