垂直落下式サミング

死霊院 世界で最も呪われた事件の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
悪魔払いと称して女性を三日三晩ものあいだ軟禁し、磔状態で飲み水も与えずに放置したことで衰弱死にいたらしめたという、ルーマニアで実際に起きた監禁殺人事件の真相に迫る物語。
実話をもとにしているが、それは物語の一番最初らへんだけ。記者の女性が現地に赴くと、村人たちは悪魔の存在を自認しており、みな被害者は悪魔によって殺されたのだと主張していることがわかる。そこは、近現代的な科学から切り放された集落で、舞台が移ってからは加速度的にオカルトを肯定していく。
迷信深い環境におかれることで、宗教や心霊を否定していた無神論者女子の常識が揺るがされていく様子がスリリングであり、わりとアグレッシブに悪魔が襲ってくるのが観ていて面白かった。ロケ撮影もいい感じ。
にしても、映画より元になった事件のほうが興味深い。実際に事件を起こして逮捕された神父と修道女は、有罪判決がくだされて刑務所での懲役刑を終えて釈放されたのち、今もなお同村で同職について悪魔払いを続けてるらしい。すげえ怖いな。村人は彼らをすんなりと受け入れたんだろうか。真実は小説よりも奇なり。世の不条理に想いを馳せる、そんなエンドロール。
人々が悪魔を信じて恐れるからこそ、そこに強固なかたちで負の象徴が具体化してしまう。みんなが怖がることは本当になるという、宗教における認識論に踏み込むのは、アメリカ発パワー系怪談『死霊館』シリーズではできないアプローチだろうから、なかなかいい映画だったと思う。
でも、ザヴィエ・ジャンというフランス人映画監督に注目し、これを観測してきた私としては、ちょっと期待はずれな出来映え。『ヒットマン』『フロンティア』では真っ当に病んでたのに、お薬が効いてしまったのか。サディズムブーストは押さえぎみ。
本作における暴力は、悪魔という超然的な存在によるものであるから、その攻撃は精神から肉体へと作用するもので、肉体的な苦痛によって尊厳を奪われる屈辱を描けていない。
せっかく生意気な若手女性記者を、ぐっちゃぐちゃに虐められるストーリーなのに、今回はなんか嫌に丸くなりやがって。耽美な映像表現を目指しちゃってんのが、ちょっと悲しい。僕は悲しいよ。ド変態が真人間ぶるな。