Tai

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のTaiのレビュー・感想・評価

4.3
ガンコジジイ、雷オヤジ、偏屈ジジイ、平和な世ではそんな呼び名で影では呼ばれてそうな男。
第二次世界大戦中の英国政界でも決して好かれてはいなかった彼が首相に。

昨年アカデミー賞3部門受賞した「ダンケルク」の、まさに裏舞台を作品にしたものです。
戦時中のお話ですが、舞台は戦場ではなく国会。
国のトップと呼ばれる者たちが、それぞれの立場による言葉の応酬、いや、これは言葉の殴り合いでした。

私は感情の制御ができない。
自分でもそう言ってしまう、チャーチルの激昂っぷりは凄まじいものがありましたが、その言葉が自尊心や他人を蔑んだものではありません。
攻撃的な彼でも、悩み、苦しみ、神経をすり減らしていく様は観ていて心が痛みます。
そして状況が進展しない間にも「ダンケルク」のような絶望感が戦場では兵士達を襲い続けているのかと思うと堪りませんでした。

戦い続けるのか、和平交渉するのか。
側から見れば何を言われても揺らぐことの無いような男が、崖っぷちに立たされて弱っていく。
あの体格もあって、時折聞こえる「ふぅん」という息が漏れたかのような声が、どこか可愛くも弱々しさを感じ、それがまた人間らしさを演出しています。
窮地に立たされた彼を歴史的決断に導き奮い立たせるまでの展開は涙なしには観ることができませんでした。
きっと他の議員も現在の状況だけで判断すると、間違ったことは言っていなかったのだろうなとは思いつつも、更にその先の未来を考えて貫いたチャーチル首相。
平時には異端とされるような人物ですが、有事だからこそ人々を先導する灯となることができたのでしょう。
日本の現国会にもこうした人が今日も戦い続けていると信じたいですね。

そして彼を支え続ける奥さんが良妻すぎる!
「健やかなる時も、病める時も〜」の結婚式で聞く誓いの言葉をそのまま体現したかのような寄り添い方。
あの奥さんと結婚できたことが、チャーチル首相の人生最大の功績でしょうね!

個人的には暗闇の中をエレベーターという箱が動いているカットが印象的でした。
行くも地獄帰るも地獄な状況を上手く表現しているなと。
原題である「Darkest Hour」ままのシーンで、緊張感をより演出していました。
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