QTaka

移動都市/モータル・エンジンのQTakaのレビュー・感想・評価

4.0
未来の話ではあるけども、とても人間臭く、まるで古代史を見るようでもある。
あるいは、古代より人類が歩んできた道のりのどこかで起こった事のようにも見える。
それは、今、この時代の出来事なのかもしれない。
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幾つかの言葉がとても強く印象に残っている。
世界設定についても、一癖も二癖もありそうだ。
さらに、映像の中にちりばめられたジョークも魅力的だ。
”古代アメリカの神々=ミニオンズ”
物語の掴みとしては最高だ!
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世界戦争、それもたった60分の殺戮と破壊。
映画は、その後の世界の物語として描かれる。
それは、ある意味で、一度終わった世界であり、生まれ変わった世界でもある。
でも、この物語の中心である”移動都市ロンドン”は、旧来の力を頼りにした世界の象徴のようであり、破壊と略奪を糧としている。
そこに居住する人間もまた現代社会の縮図のようにすら見える。
つまり、なんの進歩もないどころか、退化した人類だ。
滅亡の危機に瀕した悲劇から学ぶものは無かったのか。
物語の始まりは、この”移動都市ロンドン”を描いている。
この動く都市国家には、指導者もいて、秩序を持っていたはずなのだが、そこにほころびが生じる。
それは、権力と暴力をその手に掴もうとする邪悪な試みだった。
再びその手に最終兵器を手にして破壊の限りを尽くそうとする悪の前に、言葉の応酬があった。
「過去の教訓に学ぼうとせぬ者は、愚か者のそしりを招く」
対する返答が
「過去から学ぶものなど無い。
歴史などは、クソの役にも立たん。
ここにあるのは、輝ける未来だ。」
力のみを頼りにし、未来を手にしようとするのは、今私たちが目の当たりにしている現実ではないか。
ここに見たのは、まさに現代を生きる私たち自身の姿ではないか。
”愚か者”とは、私たちの事ではないか。
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力に訴える事を由とする人々に、私自身の姿を見る思いがすると共に、この映画の世界の地理的、政治的な関係に何か物語の意図を感じる。
移動都市の名は”ロンドン”。
「”移動都市ロンドン”は、海峡を越えて大陸へ渡った」ところから物語が始まるのだが、現実世界では”イギリスのEU離脱”によって、欧州は新しい時代を迎えている。
ヨーロッパ大陸とイギリスは、同じヨーロッパとは言え、大陸と島の関係を長い歴史の中で培ってきた。
それは、良い時も悪い時も有り、海峡を挟んで互いを見ていた。
物語は、そんな因縁の深い土地を舞台にしている。
そして、”移動都市『ロンドン』”は、自らの力で海峡を渡り、ヨーロッパ大陸をその力で蹂躙している。
これは、現実のヨーロッパ史上で、どのような意味を持つのだろうか。
これは、遠い未来なのか?明日の現実なのか?
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もう一つ、この時代の世界には、移動都市が闊歩するよー突破とは別の世界がある。
”移動都市ロンドン”および、欧州大陸に対して、西の国がある。
それは、ユーラシア大陸を東西に分けたように存在している。
さらに、それらを隔てる”壁”がある。
暴力をもって、戦闘と破壊と略奪をもって、覇権を手にしようとする事を是とするヨーロッパに対する世界として描かれる”壁”の向こうの西の世界。
そこは、優れた指導者の下で、平和と共に互いの共存を手にした社会だった。
そこは、全ての人々が生き易い場所だった。
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”移動都市ロンドン”は、手にした兵器を用いて、その”暴力”をもって世界を支配しようとしている。
その手に入れた兵器は、正に嘗て世界を滅ぼした禁断の兵器であった。
”歴史に学ぶ”以前に、その事実に向き合うことすら拒んだのだ。
その先に起こるかもしれない現実は、押して知るべし。
近未来をテーマにしたSFにおいて、戦争と平和は良く出てくるテーマだ。
それは、未来を描く物語のようで、人類の過去に発想を得た物語だ。
この物語でも、人類の歩んできた負の歴史が垣間見える。
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物語の主人公を若い男女に設定するのは、冒険映画の常套だ。
でも、この映画、その二人が主役って事で進むわけでもない。
私には、この映画で一番カッコいい役は、その二人ではなかったように思う。
主人公の女性が人買いに捕らえられ、売られようとする場面に、突然現れた武闘派の女がそれだ。
東洋系の顔立ちの女は、戦い出すとめっぽう強い。
この、彼女の登場から物語は新たな躍動感をもって進む。
物語を、そして二人の主人公をグイグイ引っ張って行くようだった。
”ウィンドフラワー”と名乗る彼女の居場所は、空だった。
軽やかに天空を舞い、先頭に立ってみんなを導く姿がカッコいい。
その決して曲げない意思と、力強い眼差しが、映画を支配していた。
こんな強いキャラクターを脇役に持ってくる事があるのかな。
間違いなく、この物語のナビゲーターだった。
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映像的にも、物語としても、とても面白く楽しめる映画だった。
空想科学映画として、含むところの意味も深かった。
原作からどれほど忠実であったとか、あるいは映画として脚色したとか、そういう事はこの際置いておく。
でも、ちょっと原作も読んで見たいな。
詰まる所、この映画は良かったってことだ。
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