SatoshiFujiwara

日本脱出のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

日本脱出(1964年製作の映画)
3.5
吉田喜重はほとんど観ているが、これはまだだったなあ、ということで。吉田が本作を最後に松竹から離れたのは知っていたが(ラストシーンを勝手に切られたのにムカついて辞めた。確かに唐突な終わり方で妙です)、なんか微妙感が漂う。冒頭いきなり「芸術は爆発だ」の岡本太郎が出て来て仰天したが、竜夫を演じる鈴木ヤスシのあの単調な芝居はギャグかよって感じだし、トルコ風呂(今ならこの言い方完全アウトね)の金庫破りへの過程の描き方が曖昧やら全体に吉田にしちゃタルい演出とか文句の付けどころはあるにはある。

しかし本作で面白いのは1964年の東京オリンピック開会直前を舞台とし、犯罪を犯したことが直接的な理由だとは言え竜夫が日本を嫌悪しアメリカへ逃亡しようとするという筋立てであるところだろう。いざ不法出国する直前になって今は飛行機が韓国にしか行かないと告げられた際の竜夫のセリフ「韓国なんか行きたくねえ」に対し、犯罪に道連れにしたトルコ嬢ヤスエ(桑野みゆき)が「韓国だってどこだって日本よりいいじゃないの」と返すシーンはコロナウィルスやらそれに伴う某首相のまずすぎる対応なども込みでおいおいこれは今の日本かよ、という錯覚を起こしそうになる。高度経済成長期真っ最中、日本中がオリンピックで浮かれている最中にこんなのを撮ったんだから恐らく吉田は当時の日本に相当嫌気がさしていたんじゃないか(オリンピック聖火リレーの中継車をジャックするシーンすらある)。今年87歳でなお矍鑠たる吉田(つい先日ナチスのルドルフ・ヘスの生涯を描いた小説を出版したばかり)、今何を想うか…?

このしばらく後に恐らくは吉田のキャリアのある意味頂点を成す『エロス+虐殺』『煉獄エロイカ』『戒厳令』を世に放つが、ちょうど同じ時期に大島渚も『儀式』『絞死刑』といった問題作を撮るわけで、松竹ヌーヴェルヴァーグのこの2大巨頭を比較して捉えると誠に興味深い(篠田正浩は少し方向性が違って審美性の高い『心中天網島』なんかの傑作を作っている。なんという時代)。
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