ヘソの曲り角

ファースト・マンのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.2
私の集中力が切れたのかわからんが最後失速してないか。やっぱチャゼルって失敗フェチなのかな。まあそれは置いといて、本作がチャゼルの最高傑作であることは疑いようのない事実である。

主人公(観客も)を過剰なほどに追い込むのが得意なチャゼルは伝記ものとの相性が非常にいいと思う。大抵は色んな失敗の果てに偉業を成し遂げるので。あと脚本が別の人なのもよく作用してると思う。他の作品のようなロマン偏重の小っ恥ずかしさがそれほどなく、それはむしろソ連との宇宙開発競争に躍起になっていた60年代アメリカに投影され、その世論との乖離が合間によく描かれていたと思う。この世論との乖離対してニールは俺は飛ぶだけだから、と自分の仕事に徹しているのが面白い。決して愛国的なテーマでなく実験としての宇宙開発に身を捧げた人間として撮られているように思えた。ニール・アームストロングという人間を冷静沈着、寡黙な人または何考えてるか分からない、何かしらの感情が欠落してる人と捉えて彼の良し悪しをかなり緻密に描写できていたと思う。基本家庭では子どもの相手ができず仕事に打ち込むことしかできないある種残酷な人間と割り切ってずっと家庭のギクシャクした感じを撮っていたのが印象的だった。またジャネットは典型的な良妻であるが、ロケットに乗る前日に「ちゃんと子どもに帰ってこれないかもって言ってから飛べ!!!」とキレたシーンがとてもグッときた。それでも結局子どもに曖昧なことしか言えないニールが、長男から最後に手を伸ばされて握手するところもさりげないようで結構じーんとくる。

ニールの心の中には大きくなる前に死んでしまった長女の存在がずっと影を落としていて、それが最後の最後にようやくけじめをつけられるというのは鉄板ではあるもののやはりいい落とし所だと思う。長女に限らず本作では同じプロジェクトに参加していた同僚が事故であっという間に死んでいくのもありかなり重苦しいがその苦しみにじっと耐えているニールを演じたライアン・ゴズリングのおかげでずっと飽きることなく見続けられる。彼の仕事は本当に素晴らしい。

難点は、一貫して集団を描けないのがニール以外のプロジェクトメンバーで印象に残ってるのが途中で死んでしまう一人しかいないという事態につながっている。最後の月面着陸もけっこうニールのワンマンプレーな感じがしてここまでのイメージと若干ズレる。どちらもチャゼルの難点ではあるので作家性が悪く作用したな〜と思った。

本作の16mmかな?まあフィルムで撮ってる粗い質感がめちゃくちゃ作風に合っててすごかった。地球と宇宙の間の青みがフィルムの淡さとの親和性がめちゃくちゃ高くてすごい綺麗に見える。宇宙の撮り方もかなりゆったりしていてちゃんとスケールが感じられた。とにかくフィルムの質感の扱い方が超良かった。音楽もよかったと思う。これで興行爆死なんだからほんとわかんねぇよな映画って。撮影リヌス・サンドグレン、音楽ジャスティン・ハーウィッツ、エグゼクティブプロデューサー スティーブン・スピルバーグ。

今回チャゼルをひと通り見直したのは個人的にノーランと近い位置に彼を置いていたからで、改めて確認すると全然違うのがやっぱり分かった。チャゼルは子どもっぽいね。でも「ファーストマン」に関してはノーランが「インターステラー」や「オッペンハイマー」でできなかった宇宙や伝記へのアプローチが圧倒的にうまかった。そんなに好きではないけどチャゼルの今後はまだ全然期待できると思う。人の脚本で伝記もの、戦争もの撮ったらいいと思う。