海

ファースト・マンの海のレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
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大人になってから、諦めてしまうことが増えた。それと同じくらい、諦められないことへの執着心も強まった。たとえば、ねこ、わたしは自分の飼ってる猫を自分の命よりも大切に感じていて、そのために恋人と別れて友達と疎遠になってデートを断って上司に口答えをしてしまったことさえある。別にそれで気持ちの程度を測って示そうとかしてるわけじゃない。ただわたしは、そうしなくちゃ自分が壊れてしまう気がして怖いだけだ。猫のこと、猫と暮らすこと、わたしが猫を何よりも愛していること、そこにほんの少しでも他人の爪を立てられると、すぐさま拒否反応が起こる。そうでもしないと、その場で泣き出してしまいそうになる。 いのちへの愛と怒りだった。宇宙飛行士でなく父親でもない、悲しみだけを湛えた顔で、月を見つめ、もう二度と会うことのないひとを想う彼を見て、わたしは自分の猫のことを思った。いのちへの愛。それはなんて果てしなくて、絶え間なくて、美しくて、悲しいんだろう。ブルーグリーンのまるい二つの瞳こそが今わたしの一番近くにある海で、ゴールドのまるい二つの瞳こそが、今わたしの一番近くにあるお月さまだった。たった一度だって同じ出来事を再演することはできない、それでも、過去と未来の混在が、今だった。愛してるということばで表現していいのが、わたしのこの、静かで、澄んでいて、恐ろしいくらいに果てしなくて、見渡しても変化ないくらい深い、無数の水滴から成った、胸の奥の泉だけだったらどんなに楽だったか。わたしのこれは、いつも普通じゃない、夢でも絶望でもない、その両方だ、愛とは、生と死の両方を指す言葉だから。
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