あさ

冬の旅のあさのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
4.0
『顔たちところどころ』くらいしか見たことがなく、なんとなく「可愛いおばあちゃん」という認知であったアニエス・ヴァルダ。ドゥミとかロメールを見るたび彼女の作品を見たいと思うのに、なんかず〜っと機会を逃していた。クレオもドゥミの少年期も上映してたことあったのに…。

それでまあ、結果的に冬の旅と出会い、はじめて彼女が撮った映画を見る。あまりにも鬱の底に突き落とされてびっくりこく。勝手にほっこりイメージだったから。ヤニがモナの唇まで侵食してて、これは映画?なの?と思いながら、アニエスがドキュメンタリーの血を引く左岸派であることを思い出す。他のを見ていないから何とも言えないけれど、少しヌーヴェルヴァーグの色が見えてきて面白かった。

コニャック飲んだおばあちゃんがオーララって言ってて本間に言うんだ!!とテンション上がった。間違いなくあそこが一番幸せだった。「楽に生きたい。」何が彼女にそこまでの自由を求めさせたのか。女性のホームレスであることは劇中挟まれるような女性特有の危機に見舞われるリスク(というのも嫌だけど)が実際にあるわけで。それでもモナを思い出す女性の中には「羨ましい」という声が多く。私も見ながら、モナに何かを期待してしまった。性別が何だから、と括るのは嫌だけど、だからこそ自由が欲しい。ここで脳裏によぎる『ウェンディ&ルーシー』の物騒な茂みのシーン。どう考えても楽ではない生き方。でもこれが、こき使われて生きる、マジョリティが考える真っ当な社会よりも楽なのであれば。

1人の人間を中心に世界が繋がり、それでいても全ての点を繋げることはない。彼女を思い出す声が偏ることもない。なんとも気持ちよくて気持ち悪いリアルな心地、心ムギューってなりますな。
あさ

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