Sashiwo

冬の旅のSashiwoのネタバレレビュー・内容・結末

冬の旅(1985年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ものすごい疲労感。映画を見るのも体力勝負というまとめは素朴すぎるのだが、寝落ちしてしまった自分の疲労は主人公のものと無関係ではないと思った。ポスターとキャッチコピーだけを見ると『ノマドランド』風だけど、方向がまったく違う。『冬の旅』は死から始まり死で終わる。閉塞感しかない。

フランスのある地域の木がアメリカ兵の持ち込んだ細菌に感染し、片っ端から切り倒されていく。その「菌」の研究者が、主人公のホームレスを車に乗せて秘書として雇おうとする。研究者は途中で野宿者を降ろす。この研究者は自宅で風呂に入りながら電話でホームレスの異臭について語る。ラスト近くで、このホームレスは町の伝統行事(木の仮装をする男たちが無差別にワインをぶちまける祭り)に巻き込まれる。その後、彼女は畑で転んで凍死。ワインで身体が濡れたことだけが原因ではない。

上に挙げたシーンは単なる私の都合の良い切り取り(剪定)で、映画の一部に過ぎない。情報量はもっと圧倒的に多い。けどよく分かりませんでしたと逃げずあえて焦ってまとめる。放浪者のフィジカルな汚染=悪臭に気づくドライバー(鑑賞者たち)がこの映画の主人公であり、ホームレス(予備軍を含む)に向けて哀れみや善意を向けるその精神が汚染されている可能性を考えなくてはいけない、という自己反省の動きを作品は観客に強いているように思う。だがすぐに自分で反論すると、これは単純すぎる。なぜなら犬や生まれたばかりの子供がホームレスの主人公を嫌悪していることが強調されていたから。モラルを理解する前にまだ汚染されていないイノセントな何かがあるとか、何かホームレスに接するオルタナティブな方法があるという理想を持ってしまいかけた自分を、汚染を免れようと考えた自分を根底から反省(伐採)しなくてはいけないのかもしれない。どうしたら「根こそぎ」根底から考えることができる?そもそもこういう偉そうな態度から切り倒さなくてはいけないのかもしれない。
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