みんと

冬の旅のみんとのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
4.0
アニエス・ヴァルダ監督・脚本、サンドリーヌ・ボネール主演、実話を基に描いた人間ドラマ。
放浪の末に路傍で亡くなった18歳の少女(モナ)の道行を目撃者の証言を繋ぎ合わせて描いていく……。


コレは楽しみにしてた!
けど、予想以上に辛辣でヘビーな作品だった。そして、監督の映画哲学すら垣間見られるフェミニズム映画だった。

モナが凍死するに至るまでの数週間の足取りが、如何にもドキュメンタリー作家らしい手法で、モナに関わった人々のインダビュー風の映像の散りばめによって展開していく。
孤独な徒歩旅を印象づける為の13のドリーショット(カメラを荷台に乗せて動かしながら撮影する方法)の拘りも監督ならでは。


モナのバックグラウンドは一切明かされない。なぜ放浪生活を始めたのか、彼女が何を望んでいて何を拒否しているのか、無口なモナは一切の答えをくれない。

ただ、完全に見る側に委ねるスタンスかと言うと、そうでも無くて。
飽くまでも、彼女と関わった人達の目にどう写り、どう感じたのか、そこに監督が描きたかったメッセージが炙り出される。
とりわけ、男性と女性では明らかに彼女を見る目が違うのが興味深い。

アウトサイダーのモナを見下すか哀れむか、もしくは色眼鏡でしか見ない男性たちに比べ、登場する女性たちには少なからず羨む気持ちが見て取れる。
男性中心社会における女性たちの窮屈な思いと自由への憧れが、モナを通して浮き彫りとなる。

時代も設定も違うけれど、ふと浮かんだショーン・ペン監督『イントゥ・ザ・ワイルド』。同じくバックパッカーの話。しかも実話ベース。ただ主人公が男性故に好意的に受け入れられる部分があった。(個人的にはほぼ好意的)
比べて、本作はどうだろう…

女性が主人公、そこに監督の意図を強く感じられる。モナに寄り添う余地も僅かながら与えられる気がする。

勿論、劇中でのモナの言動全てが、自由を求めると言うより、単なる怠け者にしか見えないのは大前提ながら。「私は楽をして暮らしたい」とも何度か発しているくらいだし。

常に仏頂面、髪も洗わなければお風呂にも入らない。ありがとうも言わない。
共感や同情どころか不快感すら感じる。
ただ、そんなモナがランデュエ教授と揚げ菓子をほおばるシーンはほろっとさせられる。女性同士の連帯の意味でも印象的なシーンだった。
そして、モナがもっとも幸せな(幸せに見える)瞬間が、目の不自由な老婆とのシーンだった。コニャックを酌み交わし、ケラケラ笑うモナに唯一顔が緩んだシーンでもあった。

何者にも縛られず、その日暮らしの末のラストは自業自得に違いない。ただ、果たして無念なのだろうか?ある意味本人にとってはハッピーエンドなのでは?もしくは想定内でもあるのかも?
ぐるぐると考えが巡る。

何れにしても、小汚いけど可愛い顔の少女モナを体当たりで演じきったサンドリーヌが素晴らしかった。正直、あの不潔感はサンドリーヌじゃなかったらアウトだったかも?


自由を選べば孤独になる
でも長くは続かない
孤独と言うのは体も蝕んでいく…

羊飼いの台詞がことさら響いた。


監督作品7作目だけど、単純に好きなんだろうなぁとしみじみ。
常に、何故かで、きのこヘアのヴァルダおばあちゃんがチラチラ頭に浮かんでた。笑
みんと

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