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冬の旅のKKMXのレビュー・感想・評価

冬の旅(1985年製作の映画)
3.7
 ヴァルダっぽいヘンなガーエー。まおも。主人公のモナの心理描写がおそらく意図的に廃されているため、観手の価値観がものすごく投影される作品だと思います。踏み絵っぽい作品。


 ある冬の朝、女の凍死体が発見された。彼女はモナという。ある日、海で水浴びしているところを見かけられてから、長らく放浪生活をしていた様子。映画は生前のモナを知る者たちのインタビューや、彼女の放浪生活を映し出していく…という話。


 とにかく、モナの放浪が描かれるのだけど、上述のように心理描写とか背景とかが描かれないため、この人のパーソナリティはさっぱりわからない。なので彼女に共感するような作りにはなっていないです。ただ、彼女の『自由』への固執はホンモノで、ある意味自由に殉じたとも言えそうです。

 それ故に本作を鑑賞すると、2つの視点が浮かび上がるように思いました。

 ひとつ目は、観念的・形而上的視点です。モナは絶対に自分の意志以外の行動はしません。自分を貫き切って行き通しました。それは、社会の抑圧・支配への抵抗/怒りがルーツにあるように感じます。
 人は多かれ少なかれ支配されながら生きます。特に、社会的な制約が大きな女性や外国人、その他マイノリティの人々は不条理な支配に甘んじざるを得ない面もあるかと思います。しかし、モナはそれらを強烈に撥ねつけて生きます。モナは「楽して生きる」と言ってましたが、彼女の『楽』とは、フィジカル的な楽さというよりも、支配されず自分のありのままに生きる自由さを言っているのではないでしょうか。支配されるくらいなら厳しい旅がいい、その生き方こそモナにとって『楽』なのだと想像しました。
 本作は女性監督による女性の放浪者の映画なので、結構フェミニズム的文脈から語られることもある様子です。男性社会が故に、モナの絶対に隷従しない姿勢は崇高さを感じさせるのかもしれません。

 ふたつ目は現実的視点です。自分を貫き自由を墨守するモナですが、現実的に見れば単に自分勝手に生きている人です。世話になった人に感謝もせず、たいていは何かを盗んでいく始末です。また、自分を貫き、支配に反発しているものの、やはり経済的なルールからは逸脱できず、部分的には日銭を稼ぐため、誰かの支配下に入ることになります。
 そのような生き方であれば、誰も助けてくれる人はいなくなり、最終的には困窮してあのような末路を辿るのも宜なるかなです。

 こう考えると、モナはけだもののように自由に生きましたが、人間社会はけだものが生きるようにはできていないためのたれ死んだ、と言えそうです。とはいえ、けだもののような自由な魂は人の心を打つので、抑圧されて生きている人や、主体的に生きられない人にとっては輝かしいのかもしれません。


 また、作中ではたびたびモナの臭さが言及されます。これも踏み絵的な印象です。臭いという外的な要因を超えると、モナと関係性を少し構築できる様子が描かれていました。偏見とか生理的嫌悪感を超えたところに人間性があることを伝えているのかな、と思います。月並みですが。


 で、自分は本作観てどう感じたかというと、モナに崇高さ等は感じず、また犬死にだ、みたいな否定的な気持ちも起きませんでした。なんというか、こういう人なんだから結構満足した人生だったのでは、くらいでしたね。とにかく、可哀想な話にはまったく思えず、モナは寿命を全うしたな、的な感覚を受けました。
 
 そして、類似作品としてオススメされる『WANDA』とはまったく違いますね!『WANDA』はこの世を生き抜く力が乏しいため(おそらく軽度知的障害)、さすらわざるを得ないわけですが、モナは支配されたくないからさすらっているだけです。モナは非常に主体的です。だから一部のフェミニストに愛されているのかもしれません。
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