QTaka

さよならも出来ないのQTakaのネタバレレビュー・内容・結末

さよならも出来ない(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

止まってしまいそうな時間の中で、互いの言葉を本に求める二人の物語。
”さよなら”も出来なかった三年間。
さて、二人はどうなるのか。
.
配信映画祭2020にて鑑賞。
二度鑑賞しました。
二度目は、じっくり見られました。
そして、題名”さよならも出来ない”がちょっとわかったような気がします。
二人の現在の不可解な関係、そして3年間という生活の姿。
この状況理解が有って、このストーリー展開に入って行ける。
そこにちょっと時間がかかってしまいました。
だから、二回鑑賞しました。
.
冒頭から始まる二人の日常生活。
カーテン越しのシルエットに浮かぶ環一人。
カーテンを開けて、朝日が差し込む。
用意された本を手に取り、ノートを開く。
一方の香里君は、本の山に囲まれて寝ている。
崩れる本の山。
二本のテープで区切られた廊下を居間へ。
環の用意した本(『崩れ』幸田文)を手に取る。
ノートを開き、書き込む。
環へ新たな本を用意する。
『城の崎にて』(志賀直哉)
人形の顔を今朝の表情に合わせる。
.
これが二人の朝のルーティーン。
そこには、互いが定めた、あるいはそれぞれのルールがある。
第一に、境界線。
ただ、そこには少し不満もある。
「お互いに干渉しない」という事が互いを干渉している。
二人は、互いを隔てた広い溝をはさんで、互いに長い紐で引きあって、あるいは棒で突きあって、支え合って生きているのだと思った。
そこに相手がいることを確認して、初めて安心して生きられる関係。
だから、その溝は、有って無いようなもの、無くて必要なものなのだろう。
.
そんな二人の関係にちょっと波が立つ。
親戚のおばちゃんとおっちゃん夫婦がやって来る。
それぞれの職場の人間関係もある。
そして、香里君の誕生日。
二人は、この波に揉まれて、ちょっと考える、そして立ち上がろうとする。
.
この辺まで来て、二人の3年前、こんな生活になる前の二人の姿が、会話の端々に見えていることに気付く。
フラッシュバックして、別れる前の二人の姿を現すシーンが有っても良かったと思うのだけれど、そういうカットは無い。
そのかわり、会話の中に、どんな二人だったのかが語られる。
そして、今、それから三年の時間に変化が起きる。
環の告白からの会話。
香里「出て行こうと思います」
環「どうして?」
香「好きな人が出来たら、相手に報告する
 それを聞いた相手は、何も言わずそっと出ていく。
 そういうルールです。」
環「…」
環「私はルールを破ったことは有りません」

これは、環の香里への告白だろう。
今まで続けてきたこのルール、この生活を守りたいという。
はたして、そのルールを守ること、この生活を守ることの意味とは何か?
そこには、ルールを遵守する二人の存在が有った。
あるいは、この生活を続けている二人の存在が有った。
だから、もう一方の香里君の意思が問われる。
.
一晩中歩き回る。
ワンコに出会う。
早朝、部屋に帰ってくる。
出て行く準備をする。
そこで、ルールが破られる。
その時…
ルールを破って、この3年間の生活、この関係を壊したのは香里君だった。
それは、彼がこのルール、この生活、この関係を壊そうと思ったからであり、それが彼の気持ちの表れだった。
そして、それを環は待っていたのだろう。
今までの生活は「さよならも出来ない」三年間だった。
そしてここで、「さよならは出来ない」という確信にたどり着いた。
.
随分とまどろっこしいストーリーだったと思う。
だからと言って、面倒な話でも無かったと思う。
話の展開が、少し分散してしまいそうな部分も有ったかもしれないが、それは二人の姿を見せるためのストーリーだとわかれば、そこにもフォーカスを当てることが出来る。
その意味において、本作に出てくる数冊の本が気になる。
その本の内容が、この物語に何を示唆しているのかいないのか。
実際、セリフの中に本からの引用が有るのも気になる。
とは言え、そこを拾うほどに読書家では無い自分に残念。
でも、面白いお話だったし、主役の二人の抑えに抑えた感情表現が魅力的だった。
そして、この一貫して熱量の無いキャラクター設定も面白さの一つだった。
恐らく、低予算、撮影期間も短い制作だと思うが、その中でこの雰囲気を作り出したことが面白いと思う。
ただ、一度見ただけでは入り込めなかったのがちょっと厳しい。
劇場で鑑賞したならば、2度見ると言うことは簡単には出来ない。
その意味で、今回はオンデマンド配信での鑑賞で、自由度が高かったことが幸いした。
もし機会が有ったならば、三度目は劇場で観たいものだと思った。
QTaka

QTaka