背骨

HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話の背骨のレビュー・感想・評価

4.5
娘を殺された母親はその絶望と向きあう中で、なんとかして真実に少しでも近づこうと思い始める。

相手を赦すと言いながら、罰は受けるべきだと言う父親。決して許す事は出来ないが、死刑には反対する母親。
早く忘れてやり直したい父親と、事件から決して目を背ける事なく生きていくことを決意した母親。
姉を心配しているようで、世間体や財産を気にしている弟と嫁。
息子の死刑停止を懇願する犯人の母親。
自分では心底どの相手のことも親身になって考えている“つもり”の弁護士。
自分が悪い、申し訳ないと言うものの、事件の真実を語ろうとしない犯人。
…この分かり合えなさ。

誰にも感情移入は出来ないけど、誰の言ってる事もわからなくはない。…頭の中では。それは完全に理解し合えるのとは違うのだけど。

描かれているのは…
受け入れがたい悲しみから逃れるために人が変容していくさま。
それぞれの利害によって求めるものが違ってくるというやり切れなさ。
どこまで行っても表層的なやり取りにしかならず、噛み合わず、分かり合えず、違和感しか残らない他者との会話。
完全に理解し合えることはないと解った上で、人と人とはどれくらい相手を許容していけるのか?等々…
人間がこの社会で生きていく上では避けては通れないような問題に全身から突っ込んでいって作ったような、そんな作り手の気迫を感じた。

決して死刑制度の是非というものだけを取り上げた作品ではない。
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