シネマスナイパーF

ブリムストーンのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

ブリムストーン(2016年製作の映画)
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都合のいい「人間」というものに産まれてしまった都合の悪さ…これなら豚に産まれて何も知らないまま頭ブチ抜かれて腹を破られた方がマシで、豚殺しでああなってた主人公にとって、ご主人のあの結末はあまりにも辛すぎた
ここまで人間嫌悪を打ち出されると色々とキツいです


こうあるべきという観念は、残念ながら倫理を越えてくることもある
人としての理性が何かに飲み込まれてしまった状態は、普通に生きているはずの我々からも決してそう遠くはない話であり、流されなければ渡れない橋にブチ当たった経験は誰にでもあるはず、そして渡ったことがあるはず
予め構成された秩序に従うためや、自分の妄執の実現のためなど様々

主人公にとって最も過酷な抑圧である男が語り続けるものは、神からの抑圧と捉えることもできる
描かれ方こそ彼の妄執ですが、神の意志であると主張し続けるため、現代の我々から見れば「抑圧」こそが、神の意志であると

もし、神がそう言うのなら、もし、神が人間にこのような現実を与えるのなら、その意志に背くものは、行い全てが罪となるのか
腐った理性と、屈し流される犬であることこそが人間の本来あるべき姿なのだとしたら
こんな堕落した「人間」というものとして生を受けることこそ、地獄
だから彼女は、牧師と再会したその時、母ではなく、産まれてくる息子を殺した

という話かなと思っていたら、監督が、自分はプロテスタントのカルヴァン主義の元で育ったと仰っていたのでこれは間違いない
血を流し人間として目覚めたGENESIS、下卑たINFERNOからのEXODUS、そしてやってきたAPOCALYPSE、最後はRETRIBUTION
RETRIBUTIONには確かに報復という意味もありますが、この作品の場合、報復よりも報いや天罰の方がしっくりくるはず


原罪と罰というこれだけの物語を描いていながら、尺はたったの148分
叙事的なアプローチではあるものの、小説なら寓話的になりすぎていただろうし、テレビ番組ならチャンネルを替えたり他のことへと注意が向いてしまう
だからこそ、この物語を、一度腰を据えれば最後まで見届けなければならない「映画」として纏め上げたことは大変素晴らしく、プロジェクトに7年もの歳月をかけた監督のマルティン・コールホーヴェンさんの情熱は間違いなく実った

新宿ピカデリーで上映されているので、折角だからグレイテスト・ショーマンと続けて観ると味わい深いかもしれませんね
落差が…