茶一郎

マッドバウンド 哀しき友情の茶一郎のレビュー・感想・評価

4.4
 今作『マッドバウンド』は、インンディペンデント映画の聖地「サンダンス映画祭」にて、Nefflixが1250万ドルという高値で買い付けたという作品。実際、今作が限定公開でも劇場で公開されればアカデミー賞に絡むであろうと予測される傑作で、いかにNetflixの目利きの良さが確かなものか思い知らされます。
 
 第二次世界大戦前後のアメリカ・ミシシッピ州の農園を舞台に、土地を持つ白人家族と、一方で土地を持つ夢を追い続ける黒人家族との関係性、それぞれの思いが交錯する壮大な人間ドラマを描く『『マッドバウンド』。
 監督は、第二の『プレシャス』と呼ばれ、同性愛者の黒人少女の青春とその家族を描いた『アリーケの詩』で鮮烈デビューをした後、ドラマ『BESSIE/ブルースの女王』でエミー賞テレビムービー部門を総ナメした黒人女性監督ディー・リース。スパイク・リーの下で撮った小作品『アリーケの詩』からドラマ撮影を経て、ディー・リース監督の手腕がアメリカ映画界で随一の物に磨き上げられたか、この『マッドバウンド』で再確認をします。

 さて『マッドバウンド』、今作は上述の通り、白人・黒人、二つの家族の父・母・子と、総勢6人以上もの人物を描く壮大な人間ドラマ。
 中盤(第二次世界大戦の終結)までは、ミシシッピの田舎に引っ越し、農業を始めようとする白人家族と、その白人家族に雇われながら自らの土地を持つ事を夢見る黒人家族それぞれの思いがナレーションで語られる独白劇を見せます。当時の農業の厳しさと同時に、合理的になるはずのビジネスの裏にある非合理な差別と偏見が明かされ、それらが中盤以降、思いがけぬ展開に二つの家族を巻き込んでしまうのです。

 特に中盤以降は、副題にもある『〜哀しき友情』の面が一気に押し出される。第二次世界大戦からアメリカに戻った白人家族・父の弟、黒人家族・長男との叶わぬ友情の物語が『マッドバウンド』全体の軸になります。
 今作の冒頭、農園の地面を掘って出てきた「黒人奴隷の頭蓋骨」が象徴するように、ミシシッピ州というアメリカの南部に位置し、黒人に対する差別偏見が「場」そのものに地下深くから存在する土地。そのミシシッピ州を出て世界で戦った兵士である若者二人の方が、黒人への差別偏見をなくしているというのも非常に納得がいきます。
 近作に白人男性と黒人女性との結婚が禁じられ、「普通」の愛情が差別により押さえつけられる様子を描いた『ラビング 愛という名前のふたり』という作品がありましたが、今作『マッドバウンド』は「普通」の友情が差別により抑圧される様子を描いた作品と言えました。そして2017年になり、この「普通」を描くことが、右傾化しナショナリズムに走る世界への反発に繋がる、いかに重要なことか分かります。

 ミシシッピひいてはアメリカに根深く存在する差別と闘うも、敵わぬことを知った黒人家族はまた新たな土地を目指します。ディー・リース監督デビュー作『アリーケの詩』も、主人公少女が自身を取り巻く家庭の問題、マイノリティ差別から逃げるように場所を移しますが、彼女は「私は逃げたんじゃない、選んだ」と自分の選択により「自由」を得ることを肯定しました。
 そして『アリーケの詩』を一人の少女が自由を確立するまでの物語とすると、今作『マッドバウンド』は一人の青年が自由を得るまでの物語として、壮大な人間ドラマは僅かな幸福にとてつもなく感動的に終着します。
 今作『マッドバウンド』は、インンディペンデント映画の聖地「サンダンス映画祭」にて、Nefflixが1250万ドルという高値で買い付けたという作品。実際、今作が限定公開でも劇場で公開されればアカデミー賞に絡むであろうと予測される傑作で、いかにNetflixの目利きの良さが確かなものか思い知らされます。
 
 第二次世界大戦前後のアメリカ・ミシシッピ州の農園を舞台に、土地を持つ白人家族と、一方で土地を持つ夢を追い続ける黒人家族との関係性、それぞれの思いが交錯する壮大な人間ドラマを描く『『マッドバウンド』。
 監督は、第二の『プレシャス』と呼ばれ、同性愛者の黒人少女の青春とその家族を描いた『アリーケの詩』で鮮烈デビューをした後、ドラマ『BESSIE/ブルースの女王』でエミー賞テレビムービー部門を総ナメした黒人女性監督ディー・リース。スパイク・リーの下で撮った小作品『アリーケの詩』からドラマ撮影を経て、ディー・リース監督の手腕がアメリカ映画界で随一の物に磨き上げられたか、この『マッドバウンド』で再確認をします。

 さて『マッドバウンド』、今作は上述の通り、白人・黒人、二つの家族の父・母・子と、総勢6人以上もの人物を描く壮大な人間ドラマ。
 中盤(第二次世界大戦の終結)までは、ミシシッピの田舎に引っ越し、農業を始めようとする白人家族と、その白人家族に雇われながら自らの土地を持つ事を夢見る黒人家族それぞれの思いがナレーションで語られる独白劇を見せます。当時の農業の厳しさと同時に、合理的になるはずのビジネスの裏にある非合理な差別と偏見が明かされ、それらが中盤以降、思いがけぬ展開に二つの家族を巻き込んでしまうのです。

 特に中盤以降は、副題にもある『〜哀しき友情』の面が一気に押し出される。第二次世界大戦からアメリカに戻った白人家族・父の弟、黒人家族・長男との叶わぬ友情の物語が『マッドバウンド』全体の軸になります。
 今作の冒頭、農園の地面を掘って出てきた「黒人奴隷の頭蓋骨」が象徴するように、ミシシッピ州というアメリカの南部に位置し、黒人に対する差別偏見が「場」そのものに地下深くから存在する土地。そのミシシッピ州を出て世界で戦った兵士である若者二人の方が、黒人への差別偏見をなくしているというのも非常に納得がいきます。
 近作に白人男性と黒人女性との結婚が禁じられ、「普通」の愛情が差別により押さえつけられる様子を描いた『ラビング 愛という名前のふたり』という作品がありましたが、今作『マッドバウンド』は「普通」の友情が差別により抑圧される様子を描いた作品と言えました。そして2017年になり、この「普通」を描くことが、右傾化しナショナリズムに走る世界への反発に繋がる、いかに重要なことか分かります。

 ミシシッピひいてはアメリカに根深く存在する差別と闘うも、敵わぬことを知った黒人家族はまた新たな土地を目指します。ディー・リース監督デビュー作『アリーケの詩』も、主人公少女が自身を取り巻く家庭の問題、マイノリティ差別から逃げるように場所を移しますが、彼女は「私は逃げたんじゃない、選んだ」と自分の選択により「自由」を得ることを肯定しました。
 そして『アリーケの詩』を一人の少女が自由を確立するまでの物語とすると、今作『マッドバウンド』は一人の青年が自由を得るまでの物語として、壮大な人間ドラマは僅かな幸福にとてつもなく感動的に終着します。
茶一郎

茶一郎