曇天

勝手にふるえてろの曇天のレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.5
松岡茉優の一人喋りでずっと物語を引っ張る快作。彼女は好きな部類だったけどこんなに面白く演技できる人だとは知らなかった。綿矢りさの原作は台詞が少なく独白調。台詞のほとんどとギャグと細かな展開は大久明子監督によるもので、重要な台詞も監督独特の「節」に変換されていて小気味良く聞こえる。邦画の野暮ったさは全く感じなかった。妄想癖の主人公ということでぶっとんだ日常会話の嘘は割と早めにわかるのだけど、境目が曖昧で区別がつかない部分もある。これが中盤で効いてくる。イチ関連で展開を丁寧に積み上げて積み上げて突き崩す。そのカタルシスとしてミュージカルが入り、ここがお話のピークかと思いきや、そこからさらに妄想とは関係ない現実世界で「別の問題」で痛手を受け、積み立てを崩してしまうところがまた堅実。こういう多段式の構成は邦画ではあんまり観たことがなくて嬉しくなった。原作と脚本の力!

やっぱり映画的性質で遊び倒している部分が愛おしいくらい良い作品。日常妄想部分はもちろんだけど、うなずきのSEとかラブホ前で問答する人々とか、そして渡辺大知演じるニの言動で客は何度も笑わされた。イチとヨシカと二の関係性で言うと、下世話な話「顔面」がイチ>ヨシカ>二というように見えてこれまた上手い配役に思えた。中二時代のヨシカも22歳松岡茉優が演じるのは精神的に成長していないことの表れ、なんてことも考えられる。そしてやはり物語を象徴するような付箋や携帯の音声メッセージの使い方には舌を巻いた。座布団一枚!

『ロマンス』、『繕い裁つ人』など女性主人公の生き方についてを示唆した映画を観てきたけどまた一つピースが埋まった感じ。大好きな『でーれーガールズ』から進化した大久監督を見れて一層満足できました。東京国際映画祭で観客賞を取るなど話題にもなってるのでいくつか宣伝イベント動画が上がってます。出演者や監督から色々語られてますのでそちらもオススメです。
ギリギリ投稿はできたけど原作の文章に肝心の「勝手にふるえてろ」が見つけられないまま年を越しました。
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