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コロンバスのslowのレビュー・感想・評価

コロンバス(2017年製作の映画)
4.9
ずっとずっと、呼ばれていたような耳鳴りがする。心を静め耳をすませば、それはわたしのひとりごとだったとわかる。いくらでも言い換えられたはずの、はじめましてとさようなら。その後悔が憂鬱となり、日常を、日常たらしめている。わたしは今日まで太陽と生きてきた。思い返せば気まぐれな天気ばかりを気にかけ、その顔が曇らないよう空を仰ぐ毎日だった。もう何年も、まとまった雨は降っていない。そう感じる。いつからか、この目には雨が降らなくなってしまった。遊び疲れて力尽き眠る子供たちは、朝を迎える度に新芽のような瑞々しさで、遠浅の眠りを漂うわたしは、何度でも夜に向かって駆け出すその背を、曲がりなりにも大人のそれとなったまなざしで見つめていた。今、この目に映る風景が先回りしたものではなく、容赦のない関係を愛することや、憎むことと地続きの世界に待ち受け、過ぎ去って行くものであるという心強さ。わたしはそのような風景に、何度となく救われて来たように思う。誰のせいでもなく夢は死に、誰のためにもならない嘘も生まれる。日和見に追われるありふれた日々は、スローモーションのアップダウンに過ぎず、もう空っぽになることなどない。太陽はいつまでも太陽。わたしはいつまでもわたし。
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