まさか

コロンバスのまさかのレビュー・感想・評価

コロンバス(2017年製作の映画)
4.2
ドラマティックでもなくエンタメでもないけれど、主人公の心の機微を繊細に描いて、深い余韻を残す作品。時々こういう作品に出会えるから映画はやめられない。

物語の大半は主人公の2人が語り合うシーンでできていて、動きの少ない静かな画面が続く。今どき珍しいトーンの作品だと感じたが、監督が小津安二郎の研究者だと知って腑に落ちた。だが、この語りの中身がとにかく秀逸で、映画の大きな魅力の一つになっている。

もう一つ、作品中にモダニズム建築の代表作がたくさん登場するのも本作の見所。特に、サーリネンのミラー邸を映像でふんだんに見られる機会はかなり貴重だろう。

主人公の1人は、アメリカで建築学の教授をしている父親が病に倒れたため、韓国からコロンバス(インディアナ州)の街に飛んできたジン。もう1人はコロンバスの住人で、建築に関心があり、ジンの父親の講演会があるたびに積極的に足を運んでいたケイシー。

ジンは父親を「一度もこの僕に関心を持ったことがない男」と突き放す。他方ケーシーは「私がいなければ母は生きていけなくなる」と心を寄せる(母のエレノアは病を抱えている)。

ジンは父親を忌避し、ケーシーは母を守り抜く覚悟を抱いている。親に対して対照的なスタンスをとるこの2人が、ふとしたきっかけで出会い、モダニズム建築の宝庫であるこの街で著名な建築作品を訪ねながら互いの身の上や考え方について語り合う。

所々に小さなエピソードが挟まれるが、物語の骨格はもっぱら2人の語りが作り上げている。ただそれだけなのだが、語られる内容が、人種や文化の違いを超えて、どの国の人々にも共通する苦悩を巡るものであるため、見過ごすことのできないものになっている。どこにでもある親子のすれ違いや愛憎と、それに悩まされる者の心の揺れを、この上なくリアルに繊細に描いているのだ。

それだけでも魅力的だが、2人のやり取りのなかに、そこはかとない可笑しみと捻りの効いた機知が含まれていることも本作の愛すべき点である。シリアスな話を、シニカルな味付けで笑いに変える手つきが鮮やかで、劇場の暗闇の中、幾度か声を押し殺すのに苦労した。

個人的には「お母さんが薬物中毒?って、何なのそれ?」のリフレインが頭から離れない。そう言えば、ケイシーがスマホではなく今どきガラケーを使っているのも、我が道を往く彼女の人となりをよく表していて面白い。

明晰だけど、少し常識を欠いた物言いをすることのあるジンを演じたジョン・チョーも素晴らしいが、ケイシーを演じたヘイリー・ルー・リチャードソンの演技は圧倒的だ。スウィート17モンスターの主人公の親友役で出演しているらしいが、すっかり忘れていた。本作ですっかりやられてしまった。今後は目を離さないよ!
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