YohTabata田幡庸

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

5.0
今まで、何故観て来なかったのだろう。最高。素晴らしい。

淀川長治大先生が批判しようが、私はスピルバーグ作品が好きだ。

父親の仕事柄もあってか、新聞記者物が偏愛的に好きで、原田眞人「クライマーズ・ハイ」は年に一度、夏に観るのが恒例行事になって久しい。そんな私の偏愛ジャンルをスピルバーグがやっているのだから、嫌いな訳が無い。否定のしようがない。おじさんたちが喋っているだけなのに、どうしてここまで面白くなるのだ。訳がわからない。その理由はブロッキングとカメラワークだろう。本当に唸らされた。

ワイドレンズで長回し、スピルバーグの十八番だ。そして役者を兎に角動かす。なるほど、喋りの多い作品はこう撮れば観客は飽きないのか。まぁ、それが難しいのだが。
特にベン・バグディキアンがダニエル・エルズバーグに接触するシーンのブロッキングと長回しのカメラワークは白眉。

そしてあからさまではない、ちょっとしたシスターフッドのバランスも今らしくて良い。

結末は分かっているのに、終始ドキドキし、ワクワクし、「発行します」に声を挙げて喜び、一挙手一投足に声を上げながら見た。字幕はないし、言っている事が難しくて、どれだけ理解しているかは不明だが、大まかに歴史の流れは認識していたので、固有名詞を若干確認しながら、大喜びで楽しんだ。

この手のお仕事映画が大好きだ。皆、ずっとタバコをふかしている。観ているこちらも吸いたくなる。

新聞社物映画の系譜にある名作「大統領の陰謀」がある。私の父のバイブルだ。「大統領の陰謀」は、後に時の大統領・リチャード・ニクソンを追い詰める、ワシントン・ポストの若き記者が、ウォーターゲート事件を追う姿を描く。そして「大統領の陰謀」のエンディングは、記事が発表され、後に起きた事を字幕で説明し、どちらかと言えば淡々と幕を下ろす。「こう言う経緯であの事件は明るみに出たが、その先の事は皆さんのご存知の通り」と言う様に。

以来、新聞社物映画はそれを踏襲する文化が出来た。近作で言えば「シー・セッド その名を暴け」「スポットライト 世紀のスクープ」がその良い例だ。
然し本作は別の方法で「大統領の陰謀」へのオマージュを捧げる。本作は、「大統領の陰謀」とは正反対で、記事が出た後の世間や、ワシントン・ポスト、ペンタゴン・ペーパーズの記事を最初に抜いたニューヨーク・タイムスの後日譚まで描く。
では、どの様に「大統領の陰謀」へのオマージュを捧げているのか。本作は最後の最後に、民主党全国委員会本部への侵入、盗聴事件の実行犯逮捕で幕を下ろす。そして本作は「大統領の陰謀」へと続いて行く。上手い!

その物語や登場人物の勇気、意思、アツさに、何度視界がぼやけたか。何度「フォーーー!!!」と声を上げたか。何度立ち上がったか。

スピルバーグの好きな作品はここ数年「ウェスト・サイド・ストーリー」だった。然し61年の原作ありきな所があった為、条件付きだった。本作を観てその順位が入れ替わった。

本作がスピルバーグ作品の中で一番好きだ。
YohTabata田幡庸

YohTabata田幡庸